バー経営者は投げ銭の世界観

私自身の経験を振り返ると、まず中古品を売るリサイクルショップというカレー的商売からはじめ、そこで得られた資金をもとにバーというシャンパン的商売に転じたことで、ある程度の成功を収めることができました。

バー経営者という職業は、楽しいおしゃべりが聞ける場所をつくり、“シャンパンを入れてもらう”ことをなりわいとしています。

確かにバーも、形の上では一杯いくらでお酒なりソフトドリンクを出してはいます。ただそれらは通常、原価に比べて相当高い値段に設定されており、本質的には「そこに来た人が、店や店員さんにいくらお金を落としたいか」という投げ銭の世界観が適用されているのです。

ドリンクの利幅は大きく、しゃべりに至っては原価ゼロ円。ついでにYouTuberとしてもやっていけば、ラクに大儲けできそうと思うかもしれません。

しかしながら、投げ銭をもらえるのは腕のいい大道芸人だけでありまして、客もまばらな空間でしゃべり続けるのは大半の人にとっては苦痛なことです。

何より芸には「かわいげ」が必要ですが、いい歳したおじさんが現実空間で急にかわいくなれるのか、といった問題もあります。

無理やり手を出しても「フォロワー1万人で稼ぐコツを伝授! いまなら特別価格30万円」みたいな、怪しい情報商材に引っかかるのが関の山でしょう。

(やや細かい話ですが、私はいろんな人がバーに集まって居場所をつくってほしいという思いもあり、希望者に日替わりで店長を任せていました。「空間を切り分けて売る」という、いわば大家業に近い業態が「イベントバーエデン」の正体です。これはこれで「いい店長を呼べる人脈」という、しゃべりとは別の才能が必要になります)

外出自粛でも生活密着型の業態は比較的浅い傷

はっきり言いましょう。純粋なシャンパン的商売に適性がある人は、ごく限られています。誰かをまねて成功するのは難しく、そもそも誰もが目指すものではありません。

加えて今回、全世界を襲ったコロナ禍によって、シャンパン的商売は脆弱な基盤の上に成り立つ「平和産業」であることも明らかになりました。

移動制限や自粛ムードで萎縮することなく、対面接触することに何のためらいもなかったからこそ、店に集まって心置きなく娯楽を享受できたわけですが、今後しばらくはそうした前提が成り立たない、ある種の「有事」が続くことでしょう。

非日常の体験をウリにする都心の繁華街が外出自粛で軒並み大打撃を受けたのに比べ、住宅地の近くで営む生活密着型の業態はご近所のニーズに救われて比較的浅い傷で済んだという事実は、今後のしょぼい起業で生存確率を上げるために何が大切かを示しているともいえます。

堅実に“カレー”を売って得られるマネーがあって初めて、いくばくかの投げ銭もできる。世の中がどんな事態に見舞われようと変わらない、そうした基本を確認した上で、なるべく成功しやすい業態を考えていくことです。

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