台湾を標的にした中国のワクチン外交
中国のワクチン外交について、前出のブラブロバ研究員は台湾統一を狙う中国の思惑が見え隠れすると筆者に指摘する。「台湾を国として認めている数少ない国の一つである南米パラグアイはワクチン不足に陥っており、チリ経由で中国製ワクチンを受け取った。それに対抗すべく、アメリカもパラグアイに対しファイザー製を100万回分寄付することを約束した。ワクチンが圧倒的に不足しているグアテマラ、ホンジュラス、ニカラグアなど台湾と国交のある国でも同じようなシナリオが展開される可能性がある」。ワクチンで恩を売り、将来的には国交を断絶させるなどの圧力をかける材料にしようというわけだ。
ワクチン外交を続ける中国の4つの狙い
世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社ユーラシア・グループのグローバルヘルス担当スコット・ローゼンスタイン氏は中国のワクチン外交の狙いは4つあると筆者に指摘する。
「中国はコロナの初期対応を巡って批判された後、友好を築くことに関心がある。次に、ワクチンについて欧米の他の主要プレーヤーと競争できる一流の科学大国としての地位を確立したい。第三に、勢力圏と影響圏にある国々との関係を強固にしたい。最後に、普段はつながりのない国との新たな関係を確立したいと考えている」
ローゼンスタイン氏は、中国製ワクチンの効果が期待外れに終わっているため中国のワクチン外交は敗北しつつあるとみている。しかし、バイデン大統領が6月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)までワクチン外交に積極的に取り組まなかったことを「中国が残したワクチン外交の空白に入り込むチャンスを逃してしまった」と悔やむ。G7サミットは10億回分の寄付を目標に始まったが、来年末までに8億7000万回分を寄付することでしか合意できなかった。ローゼンスタイン氏は「これまでのところ中国の『一流の科学大国として確立する』という目的は達成できていないが、ワクチンが友好関係を築き、中国の影響力が拡大するかどうか注視しなければならない」と警戒する。