「ワクチン政治」に巻き込まれた小国セーシェル

「パンデミックから世界中の貧しい国々を助けることで支持を集めるという中国の願望は、中国製ワクチンの有効性への疑義によって妨げられている」――英紙タイムズ電子版は7月5日、インド洋に浮かぶ人口10万人足らずの島嶼とうしょ国セーシェルに提供された中国製ワクチンを例に出し、中国のワクチン外交は裏目に出ていると報じた。

英オックスフォード大学の統計サイト「データで見た私たちの世界(Our World in Data)」によると、セーシェルのワクチン接種回数は人口100人当たり142回。“ワクチン先進国”のイスラエルの126回、イギリスの119回、アメリカの100回に比べても圧倒的に多い。ちなみに日本は7月15日時点でまだ50回にとどまっている。

セーシェルは3月、ワクチン接種が進み、一定の割合の人が免疫を持つようになるとそれ以上感染が広がらない「集団免疫」の獲得にメドがついたとして、昨年3月から停止していた外国人観光客の受け入れを全面的に再開した。

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しかし、直後の4月、5月と感染が広がり、人口100万人当たりの1日の新規感染者は5月14日に4084人にハネ上がった。欧州最悪の15万人超の死者を出したイギリスでもこれまでの最高は881人(1月9日)、第2次世界大戦を上回る62万2708人の死者数を記録したアメリカでも同759人(1月8日)である。

一時は「わが国のワクチン接種は世界最速」と胸を張ったワベル・ラムカラワン大統領は苦い表情で「西側諸国と中国のワクチン政治の間に残念ながら、わが国は落ち込んだ」と語った。セーシェルで接種されたのはコロナ危機で外交関係を強化したアラブ首長国連邦(UAE)から贈られた中国国有、中国医薬集団(シノファーム)製ワクチンだった。

タイムズ紙は同じくシノファーム製を接種したバーレーンやUAEでも感染が拡大し、インドネシアではコロナで犠牲になった26人の医師のうち10人が中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製ワクチンの接種を受けていたと報じている。またチリやブラジルでもシノバック製の有効性への疑義が生じていると指摘した。