現在の自分と向き合い、今後のキャリア・ビジョンを立てる
大学の卒業生たちは就職をして、今度は自らのキャリアづくりを始めます。では、キャリアとは何なのか。キャリア開発室長として学生たちを社会に送り出してから突き当たったのは、そもそも「キャリアとは何か」という問題でした。
キャリアの形成においては、仕事だけでなく、多様な学習や経験も必要です。そこで考えたのが、キャリアとは「仕事歴を中心とした学習歴、経験歴の総体である」という仮説でした。仕事歴、学習歴、経験歴の3つの軸から、自分のキャリアの足跡、すなわち「キャリア自分史」を作成し、これからのキャリア目標を導き、さらに自らの天職を探る。ここで3枚目の図ができあがりました。
自分史を書かせる、就職指導をする、キャリア形成の指導を行うという3つの段階を経て3つの図解ができあがり、その図解を統合させてみると、そこには、過去から現在に至る振り返りと、未来に向けた展望の両方が入っています。人生という長い旅路をひと目で見渡せるこの図を「人生鳥瞰図」と名づけたのです(図表2)。
先の見えない時代でも不安にならないために
そもそも「人生鳥瞰図」の前半の「人生テーマの発掘」は、これから就職する人が志望先を選ぶための図解であり、後半の「ライフデザインの構築」は、就職した人がこれからのキャリア目標を考えるために考案した図解です。この「人生鳥瞰図」を、40~50代の読者が「壮年期」に向けて作成し、人生の棚卸しをする意味はどこにあるのでしょうか。
読者の多くは、企業・組織で働いていることでしょう。20代のころに「私に合った仕事」として選んだ就職先で今も勤務している方もいれば、その後、転職した方もいるでしょう。
どちらにしても、現在の仕事にやりがいを感じ、これからも続けていきたいと考えている方は「人生テーマの発掘」は省略し、後半の「ライフデザインの構築」の図を描くことで、これまでのキャリアを振り返り、深く掘り下げながら、単にその延長線上ではなく、次の展開に向けて、これからのキャリア目標を考え、「天職」を探っていくことになります。
一方、現在の仕事を自分の天職からはほど遠く感じ、同じテンショクでも「転職」を考えている場合は、「人生テーマの発掘」から始めることをお勧めしたいと思います。「自分像」の確認からでもいいし、さらにさかのぼり、自らの「価値観」を明確にするところから始めてもいいでしょう。
20~30代のころと比べて現在は、能力が向上し、関心の対象や家族の状況はじめ環境が変化したことで、「価値観」「自分像」「私に合った仕事」も変化している可能性があります。転職して始めようと考えている仕事と、改めて導き出した「私に合った仕事」が合致していれば、その転職は「天職への道」につながるかもしれません。
現在の企業・組織で、このまま仕事を続けるか、転職するか、迷っている方もいることでしょう。その場合も、「人生テーマの発掘」を改めて行い、「私に合った仕事」をリストアップしてみれば、現状がそれと合致するのか、ズレがあるのか、図上でシミュレーションすることもできるわけです。
「人生鳥瞰図」は、自分とのコミュニケーションを通して、「個」としての自分を再発見し、自分で自分のキャリアカウンセリングをするためのツールです。一見、先の見えないように感じる時代でも、自分自身のことを的確に把握することができれば、実はそれほど不安に思う必要はないでしょう。
私たちの人生は、自分自身を発見し続ける旅です。ここが面白いところで、いろいろなハプニングはありますが、いつも自分で考えるという姿勢を持ち続ければ、楽しくやっていけると私は信じています。