自分自身とのコミュニケーションツールとしての「人生鳥瞰図」

私は大学教授に転身する前、企業で20年以上働く中で、会社の仕事で成果を挙げるために必要な能力とは、「理解する(理解力)」「考える(企画力)」「伝える(伝達力)」であると結論づけ、その能力を身につけ、十分に発揮するための有効な手段として「図解」に着目して「図解コミュニケーション」の研究を続けてきました。

その過程で、自身の人生を棚卸しし、未来を展望するための「図解」として生み出したのが「人生鳥瞰図」です。その意味で、「人生鳥瞰図」は自分を理解し、自分について考え、自分に伝える自分とのコミュニケーションのためのツールといえます。

「人生鳥瞰図」は、「人生テーマの発掘」と「ライフデザインの構築」の2つのパートから成り立っています。前半の「人生テーマの発掘」では、自らの「価値観(人生観)」を導き出し、「自分像」を確認して「私に合った仕事」を明らかにします。後半の「ライフデザインの構築」では、自身の過去から現在に至る軌跡を深掘りし、未来に向けての「キャリア目標」から「天職への道」を探索します。

この「人生鳥瞰図」は、一度にすべてができあがったわけではなく、各部分ごとに何段階かを経て、完成するまでにトータルで数年を要しています。それぞれの部分は、私が大学教授としての職務を遂行する上で必要に迫られて作成したものでした。その構造と図それぞれの狙いが理解できると思うので、完成までの経緯を説明したいと思います。

「人生鳥瞰図」はどのようにして生まれたか

私は47歳で、新設されたばかりの県立宮城大学の教授となり、「知的生産の技術」という科目を担当することになりました。『知的生産の技術』は、日本を代表する民族学者の梅棹忠夫先生の代表的著作で、その内容に共感したビジネスパーソンを中心とした人々による勉強会に、私も30歳のときに入会して活動を続けてきました。

「知的生産の技術」について、この研究会で研究と実践を重ねていましたが、大学の科目として扱うのは日本でも初めてのことでした。何をどのように教えればいいか、いろいろ考えた末に思いついたのは、学生に「自分史」を書かせることでした。

過去の自分を振り返ることは、未来の自分を考えることにつながります。一般的に「自分史」は豊富な経験を持つ年長者が書くものと思われがちですが、大学生にも20年近い人生の軌跡があり、自分史を書くことは、情報を整理し、組み換え、目指すべき自分という新しい知見に結びつける作業なので、学生たちの考える力を養えるはずだと考えました。

窓から覗いた教室
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです

では、どのようにして書かせるか。そこで導き出したのが、「生い立ち」と「出会い」と「出来事」の3つの要因によって人の「価値観」は決まるという仮説でした。自分はどのような環境に生まれ育ったのか、自分に影響を与えた先生たちや友人たち、本や映画や音楽との出会い、思い出に残る出来事などを思い出しながら記述していきます。これが「人生鳥瞰図」の1枚目の図になりました。

「私に合った仕事」の導き出し方

やがて1期生も3年生になり、就職問題が浮上してきました。キャリア開発室を開設することになり、学生部長を務めていた私がキャリア開発室長に指名されました。学生たちに、どのようにして志望先を選べばいいのか、指導しなければなりません。「私に合った仕事」の探し方です。

まず、仕事を行う上で自分はどのような人材なのか、「自分像」を明確にする必要があります。そこで、今度は「性格」「関心」「能力」の三つの側面から「自分像」を描き出すという仮説を構築しました。

この中で「性格」については、当時、私が興味を持って研究会にも参加していた「エニアグラム」という分析手法を採用しました。エニアグラムはギリシャ語で、エニアは「9」、グラムは「図」を意味します。図の起源は古代ギリシャ、あるいは古代エジプトにまでさかのぼるともいわれています。

エニアグラムの性格論は、1960年代につくられ、アメリカで精神医学や心理学の研究者が注目するようになり、世界各国に広まりました。日本でも、教育関係者、医師、心理療法士のほか、企業でも研修に導入するところが出ています。

すでに導き出した自分の「価値観」に、「性格」「関心」「能力」をもとに描き出した「自分像」とを合わせて、「私に合った仕事」を「5W2H」で探っていきます。

「5W」のうち、Whoは「自分像」、Whyは「価値観」、Whenは「時代」で、これからどんな時代になるかを予測します。Whatは「職種」です。企業・組織には、さまざまな職務があります。それらは企業・組織の経営資源、すなわちヒト・モノ・カネ・情報のうち、どの資源を仕事の対象にするかによって種類が分かれます。たとえば、ヒトが対象なら人事や営業、モノが対象なら開発や製造、カネが対象なら経理、情報が対象なら広報・宣伝といった具合です。Whereは「業種」で、いわゆる業界です。

Hは2つあって、Howは「仕事の内容」。もう1つはHow muchで「給与水準」や「福利厚生」など待遇面の条件を意味します。「5W2H」をもとに「私に合った仕事」をリストアップします。こうして2枚目の図が誕生しました。