ゴルフをバカにする藤田がやっていたことは
高校時代の友人は打ち明け話をした。
「僕に頼まれたんじゃ仕方ないと言いながら、藤田は初めて銀行の接待に応じたんです。その席で藤田は『何かスポーツをやってるか』と尋ねてきた。僕がゴルフと答えたら、あの毒舌で『お前はアホとちゃうか』とこうきた。
それで、じゃお前は何かやってるのかと聞き返したら、胸を張って言うんだ。朝刊だけ新聞配達をやってる、と。あのころ、同じ年だから彼もすでに40歳を過ぎてましたよ。
それで、新聞配達には3つの得があるという。雨の日も風の日も走って配達するから体にいい。次に社会に奉仕しているという満足感がある。そして最後にゼニが入る。か弱い女性にクラブ担がせるゴルフなんてスポーツに金使うのは頭のいい人間のやることじゃない……。
表には決して出さなかった「素顔」
彼らしいなと思ったが、たいていの人間は40歳を過ぎて新聞配達をやる社長を変わり者だと思うでしょうな。
しかし、話はこれからです。彼はそのアルバイト料を自分のポケットには入れずに、一緒に働いていたアルバイトの学生にあげてたんですよ。こんなことを知ってるのは彼の奥さんと私くらいでしょう。それを言ったら、照れ臭そうな顔して、俺は多少の金なんか貰ったら、確定申告で面倒なんだと言い、そして絶対に誰にも漏らすなと……。他人にいい人だと思われるのが嫌なんですな。結構、寄付もやってるんだが、それも表に出さない。
しかし、藤田も僕ももう70歳を越えてるでしょう。藤田が変人だとか守銭奴だとか悪口ばかり言われてそれで死んでしまったら、友人としては耐えられない。誰かがあいつの素顔も話してやらないと」
(『プレジデント』1997年7月号に掲載されたものを加筆修正)