過度な期待がコロナ離婚やトラブルを生む

近しい人間関係においては、お互いに脳のなかで脳内物質オキシトシンの濃度が高まり、「仲間意識」が強くなっている状態にあると考えられます。

脳科学者の中野信子さん
撮影=川しまゆうこ
脳科学者の中野信子さん

オキシトシンは「愛情ホルモン」とも呼ばれ、相手に親近感を持たせたり、愛着を感じさせたりする働きを持っています。同じ空間にずっと一緒にいることで、オキシトシンの濃度はさらに高まります。

ただ、お互いが信頼し合い絆を育むことはいいことですが、同時にお互いに期待する面も大きくなります。

家族なら、育児や家事のサポート、収入面での協力、親の介護など、ひとりの力では大変なことがたくさんあるでしょう。そのため、必然的に自分以外の家族に期待してしまいます。そうして自分が与えた愛情にふさわしい(ときにそれ以上の)“見返り”を求めるようになるのです。

このとき、想像以上に見返りが少なかったり、期待外れだったりすると、反動で相手を責めたり束縛したり、攻撃したりするといった行動に出ることがあります。

コロナ禍では、夫婦が同じ場所で一緒にいる時間が増えたことで、相手の嫌な部分とまともに向き合うことになり、離婚やトラブルなどが増える現象も生じました。「自分だけ楽をしてずるい」「期待していたのに」といった気持ちになるのが、理由のひとつと考えられます。

こうした現象も、オキシトシンによって高まった期待が裏切られた反動として現れたと考えることができるかもしれません。

“振り回されない”子どもとの上手な付き合い方

近しい関係という観点から見たとき、子どもの教育について悩んでいる人も多いと思います。それこそあまり勉強せず、嫌なことはまったくやりたがらない子どもだと、「手がかかっていつも振り回されているな……」と感じるかもしれません。

前提として、小学校や中学校で学ぶ勉強は、子どもにとって楽しいことではないかもしれません。しかし、この時期に養うのは「学ぶ力の土台」であり、その後に本人が楽しいことを見つけたときに、自分ひとりで学んでいけるようにするための基礎となるものです。

そのため、たとえ嫌いな勉強でも、取り組ませる意義は大きいとわたしは考えます。「苦手なことを好きになる力を身につけられたら、それは生涯あなたの宝物になるよ!」と伝えるなど、嫌なことにも取り組ませる工夫をしてほしいと思います。

そうしてある程度基礎的な学びを終えたあとは、今度は逆に、好きなことに没頭できる環境を整えてあげたいですね。

このとき、子どもが感じる「嫌なこと」が役に立ちます。嫌なことを、子どもがきちんと「これは嫌い」「やっぱりやりたくない」と安心していえる環境をつくってあげることで、子どもはより自分が好きなことに集中して取り組めるはずです。

そうして、進みたいと思う道へ、自分の力で向かっていけるようになるでしょう。