一般の高級ホテルと段違い「客室あたり単価の高さ」

さて、とはいえコロナ禍での旅行業界です。急回復する星野リゾートにも決して死角がないわけではありません。当然、星野リゾート側でも認識し対策を講じていることだとは思いますが、星野リゾートの2021年夏以降のリスクについても触れておきたいと思います。

主要ホテルの客室あたり単価推移
図表=筆者作成

このグラフは星野リゾートの主要ホテルの客室当たり単価の推移を、星野リゾート投資法人が所有するANAクラウンプラザやハイアットリージェンシーのホテルと比較したものです。

客室あたり単価というのはホテル業界の重要収益指標のひとつで、客室単価と客室稼働率を掛け合わせた数字です。簡単にいえば1室が1日いくらを稼いでいるかを表す数字です。

さて、コロナ禍でも旅行業全体がGoToで好調だった昨年11月の数字で比較してみましょう。インバウンド不足に苦しむハイアットリージェンシー大阪は約6200円、ANAクラウンプラザホテルでは福岡が約1万600円、金沢が約1万4000円という実績でした。高級ホテルでは1室1万5000円前後が確保できるかどうかが収益の分かれ目で、GoTo特需が起きていたにしても一般のホテルがまだ苦戦していたことが数字から見て取れます。

では星野リゾートがどうかというと、ここは驚いてほしいところなのですが、星のや軽井沢が約8万3000円、界 箱根が約5万6000円です。より身近なファミリー向けリゾートであるリゾナーレ八ヶ岳も約3万6000円。星野リゾートの客室あたり単価の高さは、一般の高級ホテルとはレベルが違うのです。

2020年にお金を派手に使っていたのは富裕層

グラフを見ると2020年の夏から秋にかけては、コロナ禍が起きる前の2019年とほぼ同じ単価水準に回復していることが見てとれます。だとすればワクチン接種が進み旅行需要が戻る2021年夏以降も、星野リゾートは同じ業績水準に自動的に戻るように感じるかもしれません。

そこで「そうではないかもしれない」というリスクの話をしたいと思います。

ひとつめのリスクは、2021年夏の顧客は2020年夏の顧客と中身が入れ替わっていることです。実は星野リゾートに限らず、昨年の夏から秋にかけて、日本中で高級旅館、高級飲食店、高級ゴルフリゾートや高級SPAなどで謎の特需が起きていました。とにかくたくさんお金を使ってくれるお客様が増加したのです。

この新しい顧客層の正体が海外旅行をあきらめた富裕層でした。ヘリコプターでゴルフ場に出現したり、高級リゾートホテル内のフランス料理店で高級ワインを開けたりという、若干派手な消費傾向が見られたのが昨年秋のひとつの特徴でもありました。