他社に真似できない現場力と「コト消費」への注力

この差を生み出した星野リゾートの強さは本当にいろいろとあるのですが、この記事では3つに絞ってお伝えします。まず現場がとても強い。現場の社員がとにかくよく考えて行動する。

これは星野リゾートが運営特化を宣言して経営を始めた数年後に星野社長自身が語っていたことですが、この戦略を始めてみると、運営に特化することの優位性がやる前に考えていた以上に大きいというのです。なぜならば現場力を真似るのは競合他社には難しいからです。

2つめに、宿泊リゾートでの「コト消費」の満足度を上げる工夫が随所になされています。当然のことではあるのですが、旅行客はホテルにハードを求めるのではなく、旅行というコト体験の品質を求めます。

星野リゾートの場合、軽井沢に来た人には軽井沢の、那須に来た人には那須の、八ヶ岳に来た人には八ヶ岳の体験を存分に味わってお帰りいただきたいという工夫が見られます。とにかく滞在が楽しい、宿泊客にそう感じてもらえる運営の工夫があるのです。

軽井沢のくもは池
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
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超スピードで「マイクロツーリズム」を掘り起こし

このふたつはそもそもコロナが始まる前からの星野リゾートの強みです。しかしコロナ禍で星野リゾートが絶好調になった3つめの要因については、経営者の皆さんは見習うべきです。コロナ禍が起きた瞬間に、星野社長は「生き残るための需要が足りなくなる」と直感したようです。そこで昨年、星野社長はメディアに登場してマイクロツーリズムを繰り返し提唱するようになりました。

マイクロツーリズムとは、一言で言えば地元の人が地元へ旅行に出かけることです。北海道はマイクロツーリズムが進んでいることで知られていて、道外からの観光消費よりも道内の住民による観光消費の規模の方が大きいことで有名です。

県内の旅行だけでなく、多少県をまたいだとしても、埼玉の人が那須に出かけたり、神奈川の人が熱海に出かけたり、山梨の人が八ヶ岳に出かけたりするのもマイクロツーリズムです。こうした身近なレジャーは需要喚起をすればある程度の新規需要は掘り起こせます。

昨年、益子焼で有名な栃木県の益子町では、はじめて陶器市が中止に追い込まれました。そこで益子町は陶器市をウェブ開催したのですが、その流れを星野リゾートの現場はきちんと取り込みます。具体的には「界 鬼怒川」が宿泊客限定でのリモート陶器市を実施して、館内のギャラリーで益子焼の陶器をながめつつウェブで作家の作品を購入できるようにしたのです。

地元のいいものを掘り起こせば、東名阪からの遠距離客だけでなく近隣住民も旅を楽しむきっかけになります。現場にコト消費を掘り起こす経験が蓄積されていたからこそ、他のリゾートと比較して星野リゾートが超スピードでマイクロツーリズムを掘り起こすことができた。これが星野リゾートの稼働率が2020年7月に早くも急回復を見せた3つめの秘密だと思います。