実際にやってみてわかったこと

経営における創造のひとつの重要な源泉は、現場を訪問し、そこで人と人が直接交流することから生まれる創発である。この生の経験価値を完全にオンライン見学に置き換えることができるわけではない。生産ラインの流れ、在庫のたまり具合、清掃清潔の徹底など、現地に行かないと把握できないことは少なくない。

しかし、一方でオンライン見学会を行ってみたことで、わかったことがある。オンライン見学会には、リアル見学会にない利点がある。例えば、工場などのノイズの多い現場だと、後方の参加者には説明の声が十分に届かない、現物とはいってもよく見えるのは前方の4~5人といったことが起こる。

しかしオンライン見学だと、通信環境を整えておけば、全員が平等かつクリアに説明に接することができる。デンソー善明製作所のオンライン見学会でも、「リアル見学よりもわかりやすいと感じた」との声が少なくなかった。

そしてオンライン見学でも、時間の共有はできる。リアル見学についていえば、その臨場感は時間と空間の共有から生まれる。同時配信のオンライン見学には、この空間の共有はないが、時間の共有はあり、そこから生まれる場を共にした参加者たちの一体感がある。

加えてオンライン見学では、参加するための時間や場所の制約が低下する。忙しい経営者が、会議の合間をぬって参加することも可能になる。

新たに広がっていく夢

新経営研究会の松尾氏は、こうした経験をコロナが生み出したチャンスととらえている。そのうえでさらに、新しい研究会の新しいあり方の構想を検討しはじめている。

リアルの見学会の価値がなくなったわけではない。しかし、リアルとは別の価値がオンラインによって生まれるのであれば、新しい見学会のあり方が考えられる。例えば、日本の経営者たちが、海外の現場を同時訪問し、熱い対話を交わす見学会も、オンラインだとより多くの参加者を見込める。現地に中継のためのスタッフを派遣し、自動翻訳などを活用すれば、多忙な経営者を長時間拘束しなくてもよく、隙間時間での参加が実現する。制約が解き放たれ、自由な学びの理想へと踏み出すことができる。

コロナ禍のもとでも、止めない、止まらない。この行動から、新たな可能性が芽生え、それをとらえることで、新しい夢が生まれている。

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