スマホの登場が視覚障害者の世界を変えた

情報技術の発展によって、これまで辞書のように大きかった点字の本も、点字デバイスの改良によって、読みやすさは格段に向上しているという。また、文京盲学校の生徒たちの中には、一般の高校生以上にたくさんの本を読んでいる人もいる。特に近年、生徒たちの状況に大きな変化が生じたからだ。

文京盲学校のある先生は、盲学校に勤務した後、5年ほど一般の高校に異動になり、最近また戻ってきたのだが、「異動でいなかった5年の間に、劇的に変わっていた」と言う。その大きな変化とは、スマートフォンの普及だった。

スマホやタブレットのテキスト読み上げ機能の発展は著しく、特に倍速機能を利用すれば、数多くの読書が可能となる。したがって、集中してじっくり読む時は点字デバイスを、多くの読書には音声読み上げと、さまざまなツールを用いた情報体験が可能になっているのだ。

「視覚障害者にとって、スマホは圧倒的なゲームチェンジャーだった」と先生たちは言う。

スマホは音声入力、音声読み上げなど、視覚障害者の困りごとを補い、視覚世界を音に変換するツールとして圧倒的な力を発揮した。視覚障害者の意思に応え、目の代わりとなって、彼らが「知りたい」と思ったこと、「今これが見たい」と思ったことをその場で「見せてくれる」ツールなのだ。

われわれが持っていた傲慢で誤った期待

今回の取材でわれわれは、寺山修司が1984年に投げたと同じ、色に関する質問もしてみた。

だが生徒たちの答えは、40年前とはまったく変わっていた。

空は青であり、太陽は赤、金属の色は銀色だという。わざわざ音に変換するようなことはなく、表現的にも感覚的にも健常者と何も変わらない。

なぜそうなったのか。それは情報量の圧倒的な増加が生んだ変化だった。

今も昔も、目の見えない子どもたちは直接、青い空を「見る」ことはできない。けれども今の子どもたちは、青い空を称える詩や小説を大量に「読む」ことができる。さまざまな作家の目を通じて、色の概念を身につけている。その感覚は健常者であるわれわれとほとんど変わらないものである。だから今、視覚障害者である彼らにとっても、空は生き生きとした青色なのだ。