韓国側の対決姿勢も鮮明に
【青木】僕はおおむねでこんなふうに答えました。まず、竹島=独島問題には深入りしないほうがいいと。現実的に韓国が実効支配しているわけだし、いくら韓国にとって歴史認識が絡んだ重要問題だとしても、領土問題はどんな政権同士でも完全解決などするはずがなく、日本政府としても譲歩などできない。また歴史教科書問題も、教科書検定に政府は直接介入できないのが一応の建前だから、これを外交問題としても小泉政権としては対応は難しい。
一方の靖国参拝は首相自身の信念と行為の問題だから、これは首相の判断で対応が可能かもしれないと、そんなことを言ったんです。
また余談になってしまいますが、この話を以前どこかでしたら、一部から辛辣に批判を浴びましてね。「ジャーナリストとしての領分を超えた政治への協力行為で、お前がいつも批判している政治と一体化した政治記者と同じじゃないか」って。
なるほど、たしかにそう受け止められるのもわからなくはないけれど、僕は別にそれ以上のフィクサー的行動をとったわけじゃない。単に懇談の場で尋ねられたから答えただけにすぎないし、僕の発言が韓国政府に影響を与えるほどの力を持っているはずもない。
実際、盧武鉉政権はまもなく対日政策を転換し、とくに独島=竹島問題や歴史教科書問題を前面に打ち出す姿勢を鮮明にしてしまいました。背後には韓国世論の高まりもあったし、歴史のイフを語っても詮ないのですが、これが日本の表も裏も知り尽くした金大中政権だったらどうだったかとも思います。
「火に油を注いだ」韓国大統領の竹島上陸
【青木】老練の金大中ならまた別の対応をしたのではないかと考えたりもするんですが、ある意味では日韓ともに――それは保守にしてもリベラルにしても、二一世紀に入った両国の政治は新たな時代に合わせてバージョンアップさせることができなかったといえるのでしょうね。
つまり日本側では、軍事独裁と結びついたタカ派はもちろん、民主化勢力を支援した政治家たちも姿を消し、陳腐な修正主義的歴史観を振りかざす政治家ばかりが増えていった。一方の韓国でも、善かれ悪しかれ日本を知り尽くした為政者の時代が終わり、ある意味で「純粋な正義」を正面に掲げた政権の時代になって、両国を結びつけてきたパイプはどんどん細っていった。
これは盧武鉉時代に限らず、以後の韓国保守政権も同じです。たとえば李明博(イミョンバク)大統領は、国内向けの政治アピールのために独島=竹島に上陸してしまったでしょう。
【安田】ある意味で火に油を注いだわけですよね。李明博が上陸したのは二〇一二年です。同じ年にロシアのメドベージェフ首相が北方領土に上陸しているんですよ。そしてロシアの国旗を振ってるんだけど、そのときはロシア大使館のある東京・狸穴周辺で日本の右翼がちょっと騒いだだけで、日本の草の根保守やネトウヨはだれも騒いでいない。