【アタリ】その通りです。『国家債務危機』で指摘しましたが、いかなる国であっても国家債務の法則から逃れることはできません。重要なポイントは問題を次世代に先送りしないことです。日本の場合では、国民の負担率が高くないので、それほど難しいことではない。たとえ国民負担率を2倍に引き上げてもせいぜいヨーロッパ並みです。日本はなぜ増税に踏み切れないのですか?

【大前】消費税を導入するときも、消費税を3%から5%にアップさせるときにも首相のクビが飛びました。日本の首相は増税を口にするたびに退陣を余儀なくされてきたのです。

【アタリ】ならば首相を20回ほど交代させて増税すればいい(笑)。

【大前】日本の歴代首相は抜本的な税制改革に取り組むことに躊躇してきました。しかし今日、税制改革は待ったなしの状態です。遅かれ早かれ、消費税は20%程度に引き上げざるをえないでしょう。一方、所得税については最高税率がおよそ40%です。法人税については実効税率の5%引き下げが決定されたばかりですが、今のところは40.69%です。

しかし消費税だけ上げるのは、きわめて不公平で、経済活動を停滞させる恐れがあります。したがって消費税の引き上げと同時に、また税負担がサラリーマンに偏っている、という問題も解決してからでないとコンセンサスも得られないでしょう。さらに所得税ないし法人税を緩和するべきです。EU圏の法人税の実効税率は25%程度に収束しつつあります。アジア諸国に目を向ければ、中国が25%、シンガポール、香港、台湾が15~17%です。日本はこうした近隣のアジア諸国と競争しなければなりません。消費税だけ引き上げても効果がない。

そこで私が提案するのは税制の抜本的な改革です。今後、所得は減り、人口も減少していくことから、金融資産や不動産などの資産に1%ほど課税していく。さらには5~10%の付加価値税を導入すれば、現在の税収に等しい歳入が確保できる。人口も所得も増えていた時代は所得や利益というフローに対して課税すればよかったのですが、今後は資産に対する課税体系にコンセプトを変えなければならない時期にきています。

(小川 剛=構成 林 昌宏=編集協力 大沢尚芳=撮影)