設立メンバーはESGのベテランばかり

【白河】御社は「社会課題をテクノロジーで解決する起業家を支援し、ESGを重視する」というビジョンを掲げていますね。投資先の企業はどのようにして選んでいますか? ESG企業というと環境などが思い浮かびますが。

ジャーナリスト 白河桃子さん
ジャーナリスト 白河桃子さん(撮影=遠藤素子)

【村上】ヘルスケア/ウェルネス、フィンテック、次世代の働き方/教育、次世代の消費、環境/サステナビリティを重点分野としていて、どんな事業であれ必ずESGの要素を精査します。経営戦略にすでにESGが組み込まれていればいいのですが、まだの場合は「成長の過程で中核に据えていく」といった内容を一筆書いていただきます。こうしたESG重視型は、金融業界では新しい試みのように捉えられていますが、そもそも企業を投資案件として精査するならESGは当然見るべき要素だと思っています。

【白河】キャシーさんは日本で初めて「ウーマノミクス」をレポートし、安倍政権が成長戦略の柱に女性活躍を入れるきっかけとなりました。お二人とも、企業におけるダイバーシティやガバナンス、環境の重要性を早くから提唱されてきたわけですよね。今でこそESGという言葉が新しいキーワードのように語られていますが、本来は当然のことばかりだと。

【村上】その通りです。当社が「ESG」という言葉を使っているのは、そのほうが世間的に伝わりやすいからで、本質的にはまったく新しいことではないんです。キャシーが「ウーマノミクス」(※1)を提唱したのは1999年ですし、私もOECDで長年そうした課題を研究してきました。だから、設立メンバーの間では「最近はESGって言うらしいけど、私たちがもう20年もやってきたことじゃん」って(笑)。その経験値が当社の強みにもなっていると思います。

キャシー松井さん
(撮影=遠藤素子)

【キャシー】それでもいまだに、ESGと言うとEnvironment(環境)のことだと思っている企業も多いですよね。イメージアップのための活動の一つだと。でも、投資を得るにはESGをCSRの位置付けにしていてはダメで、戦略に組み込んでいるからこそ成長できるという「武器」にしなければいけない。スタートアップの起業家たちはもうそこに気づき始めていますし、私たちもどんどん後押しするつもりです。

投資家も起業家も男性だらけの世界

【白河】ただ、ベンチャーキャピタルの世界は投資家も起業家もほとんどが男性で、ジェンダーギャップがかなり大きいと聞きます。特にテック関連は、今世界のソフトウェアは9割男性が作っている。その中で、みなさんが女性であるという点はメリット、デメリットどちらでしょう? また、女性の起業家についてはどうお考えでしょうか。

【村上】自分たちが女性であることを武器にしようとは考えていませんが、実はポジティブに作用している気がします。珍しがられているのか、会いたいと思った起業家に会えなかったことは一度もないですし、投資家からの反応もとても良好でした。

一方で、女性起業家の場合は、投資してくれる人を探そうと思ったら、そこには“ボーイズクラブ(男社会)”的な壁があるのも事実。幸い、私たちはそのネットワークに入ることができているので、男性の起業家を紹介してもらう際にはうまく活用しつつ、そこに入れない女性起業家からもアクセスしやすい存在でありたいなと思っています。

※1:「ウーマノミクス」とは、キャシー松井さんが1999年から提唱している概念で、女性の活躍による経済の活性化、働き手としても消費者としても女性がけん引する経済のあり方を意味する。