ハイブリッド車のままで「脱炭素」を実現する方法とは?

現在、自動車業界の最大の課題は、CO2排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」(CN)をどのように実現するか、ということだろう。

この点についてトヨタ自動車の豊田章男社長の発言が注目を集めている。4月22日、日本自動車工業会の会長会見で、豊田社長はこう述べた。

「日本の自動車産業がもつ高効率エンジンとモーターの複合技術に、この新しい燃料を組み合わせることができれば、大幅なCO2低減というまったく新しい世界が見えてまいります」

「この新しい燃料」とは、水素とCO2から製造する合成燃料「e-fuel」だ。それまでも豊田社長はCNへの選択肢はEV(電気自動車)化だけではないと何度も繰り返し、欧米や中国が進めるEV化路線にくぎを刺していた。それに加えて合成燃料の利用もCNへの一つの選択肢であると強調したのである。

ロサンゼルスのガソリンスタンドで、水素燃料を補給するドライバー
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ちょうどそのころ私は6月2日に上梓した『2035年「ガソリン車」消滅』(青春出版社)の執筆作業の大詰めに差し掛かっていた。本の中では合成燃料「e-fuel」についてこう書いた。

現在の合成燃料の開発状況は『実験室段階』で、大規模なプラントで製造するという段階ではない。最大手の石油会社ENEOSの長期計画によると、2022年に日量159リットル、2025年に日量1万5900リットル、2030年以降に日量159万リットルを目指す。その生産量は現在のガソリン需要量と比較すると、2030年代初めでも合成燃料のシェアは1%程度だ。この数字をみる限り、とてもガソリンに置き換われる代物ではない

合成燃料は「高コストの特殊な燃料」と考えたほうがいい

飛行機の世界では原油を精製してつくるジェット燃料の代わりバイオ燃料や合成燃料などの新燃料を開発し、使用する動きが始まっている。電池はエネルギー密度が低いため、小型のドローンでも飛行時間は数十分に限られる。大型の旅客機が長距離を飛ぶためにはエネルギー密度の高い液体燃料が必須で、CNを目指すならば新しいカーボンフリーの液体燃料をつくらねばならないからだ。

現状の価格は高く、資源エネルギー庁の資料によると、実用化までには8分の1~16分の1程度にコストダウンしなければならない。技術的には実証実験の段階で、大規模なプラント生産のめどもたっていない。あくまでも将来、飛行機などに使うことを前提にした特殊な燃料と考えたほうがいい。

もちろん2050年までに画期的な触媒などが発見され、安価で大量に合成燃料を生産できるようになる可能性はゼロではないだろう。しかし、今の時点で自動車産業が合成燃料の活用に舵を切るにはリスクが高いと私は見ている。