なお、会場でクーラーボックスに入れたワクチンは30時間くらいまではマイナス60度以下で保つことができる。会場に持ってきたワクチンが余ったとしても、もう一度、ヤマトや豊田市の倉庫へ戻せばいい。倉庫には超低温冷凍庫があるからそこで保管できる。
だが……。
会場で支援に当たる豊田市やトヨタの人たちはまだワクチンを打っていなかった。
余りが出たら、打つことができたのに。高橋にそう伝えたら「いや、僕らは順番が来るのを待ちます」とのこと。
やはり、生真面目な人たちなのである。
「ベター、ベター、ベター」にしていく
豊田市の大規模接種会場における接種時間が他よりも短いのは会場レイアウトだけではなく、ワクチンの保冷管理までさかのぼって計画したからだ。
これもまたトヨタ生産方式にある「真因の追求」だ。ミスや滞留を防ぐにはその場の処理で済ませてはいけない。ミスや滞留が起きないように真因を追求し、それを解決すること。
それにしても、彼らはいったい、いつからワクチン接種を準備していたのか?
高橋はこう言った。
「新型コロナに対する危機管理、医療機関などへの支援は昨年の3月から始めていました。当初はフェイスシールド、車両や病院内で使う感染防止のアクリルボードの製作、医療用防護服の製造支援、そして、消毒液を足で踏んで出す「しょうどく大使」の生産でした。そういった支援の後、昨年の終わりから、次はワクチンだなと研究を始めたのです」
スタートが早かったから、会場だけの準備ではなく、真因まで追求し、それに対しての備えを構築することができたのである。
わたしが見学に行ったのは初回の大規模接種が終わった後だった。高橋たちは2度目以降に備えて、受付のデスクを増やしたり、掲示物を増やしたりしてカイゼンを続けていた。
トヨタ生産方式はベストを追求する仕組みではない。ベター、ベター、ベターで効果を上げていこうとする。
そのため、初回は5分だった接種時間が、今や最短4分に短縮されたという。彼らはカイゼンをやめないのである。