トヨタ生産方式を活用
豊田市の人口は42万人。うち、高齢者を含めた対象者は約25万人だ。接種会場は複数ある(現在7カ所)が、わたしが見に行ったのはトヨタの堤工場の敷地内にある厚生施設「堤TREC(トレック)」の会場である。
さて、運営に活用しているトヨタ生産方式とは同社独自の生産管理システムをいう。簡単に言えば「客が注文したクルマをより早く届けるためにもっとも短い時間で良品のみを効率的に造る」こと。
ワクチン接種にたとえれば、「来場者(客)が負担なく、もっとも短い時間で接種ができ、会場から出ていける」ことだろう。
待ち時間が少なければ来場者はストレスを感じない。会場がスムーズに流れていれば密になる心配もない。短い期間に大勢に接種することができれば地域の集団免疫の獲得も促進される。医療従事者もひと息つくことができる。
トヨタが運営を担当した狙いはそこにあるのだろう。
結果として、一般の大規模会場では30分はかかる接種が4分(いずれも経過観察の15分を除く)に短縮できたのである。
では、他の会場のシステムとトヨタのそれはどこが違っているのか。
1.「ひと筆書き」の短いルート
堤トレックのアリーナは高校の体育館くらいの広さだ。大規模接種の会場ではあるけれど、大空間ではない。そのなかに接種ルートを設定している。トヨタの施設には堤トレックのアリーナよりも広いところがあるが、彼らは大空間ではなく、接種ルート自体を短くするために、適正な広さの会場を選んだ。
そして、会場内のレイアウトは「ひと筆書き」になっていた。入り口から入った来場者は後戻りしたり、同じルートをたどったりすることなく、一本のルートで出口まで行くことができる。ただし、ひと筆書きルートについていえば、おそらく日本中のどの大規模接種会場でも、同じようなレイアウトにしているだろう。常識的に考えて、後戻りさせるようなルートを設定する人間はいない。
トヨタのひと筆書きルートの特徴は短いことだ。全体をコンパクトにして、来場者が歩く距離を減らしている。だから、接種を短時間で終えることができる。
2.人の滞留を起こさないくふう
2番目の特徴は予診票確認、予診、接種などの各ブース前で滞留が起きないしくみを導入していること。
接種の前には袖をまくり上げて、注射する腕を露出させなければならない。自衛隊の会場では接種ブースの前に椅子を用意し、椅子に座ってから、「袖をまくってください」と指示していた。
一方、トヨタの会場ではブース前に椅子はあるものの、袖まくりは歩きながら行うように誘導される。思えば袖をまくるためにいちいち椅子に腰かけなくともいいのである。だが、そんな細かいところまで動作を研究して、カイゼンするのがトヨタ生産方式なのである。
そこでは袖まくりだけでなく、動作に対しての細かい誘導があった。