診断書と被害届を見せながら淡々と語る相談者
妻から食器を投げつけられ顔にけがをした際の、医師による詳細な所見の書かれた診断書。
真冬に薄着で家から追い出され、一晩じゅう家に入れてもらえなかった際の被害届。この被害届には管轄の警察署長によって受理印が押されおり、実際に受理されたものだと確認できた。
こうした書類を、男性は一枚一枚、詳しく状況を話しながらわたしに見せてくれた。
また、彼は女性からのメールをプリントアウトしたものもわたしに読ませてくれた。そこには「あなたは嘘をついている」「そんなことをした覚えはない」「暴力を受けたのはわたしのほうだ」「あなたはすべてをわたしに押し付けてきた」などの、彼を一方的に責める言葉があった。
わたしがそれらの「証拠」に目をとおしているあいだ、彼は女性への罵詈雑言を一言も語らなかった。むしろ自分が父親として、また夫として至らなかったことを率直に語ってくれた。
彼は残業の多い過酷な仕事に就いており、たしかに女性が「ワンオペ」になってしまうことも多かったことを認めた。彼は自分だけを被害者として強調するのではなく、自分の側の問題も認めたうえで、あくまで事実関係をなるべく客観的に、わたしに説明してくれたのである。
この男性が被害妄想によってわたしに嘘をついている可能性はあるか? わたしは超能力者ではないので、彼の「本心」を見透かすことはできない。だが彼が見せてくれた診断書や被害届を見る限り、彼が嘘をついているとは思えないとわたしは判断した。
「無駄です。親権で男が勝てることは、ほぼないですよ」
ところで、このような証拠資料があっても裁判所や児童相談所は彼の訴えを認めてくれなかったという。そこまで話を聞いて、わたしは自分が今までに話を聞いてきた、他の男性たちのことも想いだしていた。
DV問題をともなわない離婚にまつわる子どもの親権について、わたしはこれまでも何人かの男性たちの話に耳を傾けたことがあった。
それらの話を総合すると、次のような共通点があった。まだどちらに親権があるのか正式には決まっていないうちに、女性が子どもを連れて家を出て行き、母子ともに連絡がとれなくなるというパターンである。もちろん、男性が子どもを連れて行くなどして独占するという、逆のケースもあるだろう。
ある男性は親権について裁判に訴えようとしたところ、弁護士からこう言われたという。
「無駄です。親権で男が勝てることは、ほぼないですよ」
彼はこの言葉を聞いて「絶望した」と、わたしに語ってくれた。親権を失い、元妻や子どもと連絡が取れなくなったとしても、男性は一生会えないかもしれない子どものために、子どもが成人になるまで養育費を支払い続けなければならないのである。