ムシューダはひょっとしたら、うちの子供たちにとっての「私」のような存在なのではないかと気付きます。自分の代わりに、衣類の虫を寄せ付けないようにしてくれる。ムシューダがあれば、虫食いがあったらどうしようと気をもむ必要もなく、自由に暮らせる。これこそが、「心の価値」なのではないかと考えました。

「タンスから離れている」のがポイント

その視点を基に作ったテレビCMが「ムシューダ そこにいる編」です。オリジナルキャラクターであるムッシュ熊雄が防虫剤を持って立っています。その隣で、タレントの高橋愛さんが「出てきなさい。そこにいるんでしょ!」と叫ぶと、「♪ムッシーシ、ムッシーシ、虫、虫」のゆるい音楽とともに、虫たち(全身タイツ姿の男性たち)がゾロゾロと現れるという演出です。

このCMの最大の特徴は、タンスから3メートルも離れたところから「出てきなさい」と虫を追い出すシーンです。お客様の「虫に関わりたくない」「虫よけは、ムシューダに任せたい」という心理に応えた描写になっているのです。

指から飛んでくる昆虫
写真=iStock.com/Tutye
※写真はイメージです

完成したテレビCMを2018年4月から放送すると、同年5月の前期好感度調査(CM総合研究所調べ)で作品別総合1位を獲得。これは西川貴教さんとミゲル少年が初共演した2011年8月前期の消臭力のCM以来の記録となりました。そして売り上げも市場シェアも好調な推移をたどっています。

同じ防虫剤でも違った「米唐番」

ムシューダに対するお客様の深層心理には何があるのか。その問いに対する一つの答えが虫と関わりたくないであることが分かりました。では、このインサイトはすべての防虫剤に共通するのでしょうか。

答えはノーです。一見、同じような商品カテゴリーでも、対象が異なるとインサイトには大きな違いが生じます。その典型例が「米唐番」という商品です。唐辛子の形をした容器の中に唐辛子のゼリーが入っていて、米びつに入れておくだけで米を食い荒らすコクゾウムシを寄せ付けないという優れものです。

お客様にどのようなメッセージを伝えるのかを考えるに当たって、まずは売り上げや市場シェア、競合商品、売り場の状況、現在のお客様の声、季節変動、米の購買状況や虫が発生した人がどれくらいいるのかといった使用実態に至るまで調べ尽くします。既存のマーケティング手法を使って、お客様の心がどのあたりにありそうかアタリをつけるのです。そのうえで、お客様の心を探り当てる作業に入ります。