そこからさらに、自分自身の心に深く潜って、その心理を見つめます。私自身はどうやらお米を「清らかで尊い食べもの」と考えているようです。子供の頃、よく母親や祖父母に「お百姓さんが作った大切なお米なんだから、ご飯粒を残さないように食べなさい」と繰り返し教えられていたことを思い出します。私たちにとって、お米は他の食べものとはまた異なる神聖なものなのではないかと気付かされます。
本人ですら自覚していない部分に価値がある
そこで、米唐番のマーケティング戦略を考えるに当たり、テーマを「日本の文化を守ろう」にしました。大袈裟なテーマだと思われるかもしれないですが、お米が持つ神聖なイメージにぴったりだと考えました。
♪お米の虫よけ米唐番
♪唐辛子の力だ米唐番
♪日本の文化を守りぬけ
♪こめこめこめこめ 米唐番
この米唐番のテレビCMでは作詞作曲からプランニング、監督までを担当しました。店頭に設置するボードやホームページも「日本の文化を守ろう」に統一しました。機能、情緒価値と心の価値の合わせ技で作ったマーケティングを展開したのです。米びつ防虫剤市場での最高シェアを更新し、現在も1位の座を守っています。このように同じ防虫剤でも、ムシューダと米唐番ではそこにあるお客様のインサイトが全く異なることを理解いただけたでしょうか。
もちろん、あらゆる商品・サービスにおいてコアな機能の価値は絶対に必要です。ただ、そこだけではない、別の心の価値で買われている事実もあります。そのことを本人も気がついていないから、「私は心では買っていません。ちゃんと合理的に行動しています」と口にされるのです。
ムシューダのような価格帯の低い消費財だけではありません。自動車や家などの高額商品でさえも合理的な判断だけで購入はされていません。それが人間らしい行動だと私は思っています。お客様は心を持っています。だからこそ、知らず知らずのうちに心で買っているという当たり前の事実があります。そこをきちんと理解することが商品開発を含めたマーケティング活動の大きな指針になるのです。