フリーミアムを「ファン」という視点で見ると、「ユーザーがどんどんサービスのファンになるように仕向け、ファンになった時点で有料化する」というスタイルとも言えるだろう。ファンになるまではタダで、ファンになるとお金を払い、ファンが全体を支える。
実際、オンラインゲームのユーザーに占める課金ユーザーは少ないが、そのようなコアなファンを主な資金源に運営されているのはよく知られている。これがフリーミアム型ビジネス面の大きな特徴だ。
Webコミックはなぜファンが無料なのか
このようにみれば、Webコミックに見られる「最新話は無料」というやり方も、「無料のオプションが用意されているという点でフリーミアムだ」と理解されるかもしれない。しかし、実はWebコミックはビジネスモデルとしては大きく異なっている。
Webコミックは最新話が常に無料で提供され、公開から一定期間経つと有料になるが、その代わり最新話がまた無料で読める。これは、常に最新話を追いかけているコアなファンほど、無料をずっと享受できることを意味している。すなわち、これはフリーミアムのように「ファンにお金を払わせる」というビジネスモデルとは正反対の構造なのである。
なぜWebコミックの運営者は「ファンが支える」という旧来のフリーミアムと異なるモデルを採用しているのか。
「ユーザーの無関心化」という新たな現象
この問いを解く鍵が、実は私たちは何を購入するかを選ぶのが「面倒」になっているという問題なのである。
コンサルティングファームのアクセンチュアは、2019年6月に『“無関心化”する消費者と企業の向き合い方』と題する著名なレポートを発表している。世界35カ国の消費者にアンケート形式で実施したこの調査は、「先進国では3~4割の消費者が情報収集を行わないままに製品・サービスを購入する、いわゆる“無関心”の状態にある。先進国の中でも、日本はとくにその傾向が強い」と報告している。
先進国ではどの製品もサービスも、値段や質がほぼ同レベルに収束している。ネット通販でほしい商品を検索しても、あとは表示された上位2、3件を眺めて、だいたいより売れているものを選ぶユーザーも多いのではないか。あるいは、単におすすめされたものをそのまま購入するユーザーも当たり前に存在する。
実際、私たちの日常は情報がたくさんありすぎて、選ぶのが面倒になっている。このことは、「選択するという行為」が大きな労力を伴っていることを意味する。このため消費者は「判断すること」自体を重荷と感じ、そのためルーティンをずっと続けたり、深く吟味したりしないで購入してしまう。つまり「自分の判断でモノを選べる人が減っている」のである。