「においに敏感」を武器に、香り開発に参加
こうしてこのクラスでは、昨年からオンラインを利用して、大学や企業とのプロジェクトにも参加するようになった。
同じく7月には、東京芸術大学COI拠点(センターオブイノベーション)でインクルーシブアーツ教育を研究する新井鷗子特任教授からの働きかけで、2020年9月26日東京芸術劇場で行われたイベント「ボンクリ(ボーン・クリエイティブ)・フェス2020」の会場で漂わせる新しい香りを生み出すプロジェクトが始まった。
香料会社、芸大の研究室、教室をオンラインでつなぎ、香りの共同研究を進めた。まず「クリエイティブとは何か」について子どもたちが考え、イメージを共有。香料会社がそのイメージをもとに香りのサンプルを20種類ほど作り、送付されたそのサンプルを子どもたちが嗅ぎながら意見を出して「クリエイティブな香り」をつくり上げていった。
においに敏感な子どもたちは、教室や人混みでさまざまなにおいが気になって、嫌な気分になったり集中することができなくなったりするため、においに敏感なことをネガティブなことと捉えがちだ。しかし、その「においに敏感なこと」自体が、香りの開発には欠かせない力であり、強みになる。芸大の新井さんは、「人と違うことはとても貴重なこと」だと、授業を通して子どもたちに伝えたという。
「子どもたちは『芸大さんのために役に立ちたい』という気持ちになり、前向きに楽しみながら取り組むことができました。そして、それがクリエイティブな活動につながることを教えていただきました」(森村さん)
「ボンクリ・フェス2020」当日、子どもたちは会場に足を運び、自分たちが開発した「クリエイティブな香り」を来場した人たちが楽しむ様子も実際に見ることができたという。これまで弱点だと思っていた自分の特徴が強みになり、誰かのために役立てられることを体験することができた。ある子は、こんな感想を発表している。
「一人だけちがっても、いつかそれがさいのう(才能)になる」
「できない」ことも「できる」に変わる
集団が苦手、新しい場所、新しい人に慣れるまでに時間がかるなどの子どもたちと、オンラインは相性がいい。自分の状態によって、ちょうど良い距離感で授業に参加することができる。
「『みんなと違うからできない』と思っていたことが、リモートを取り入れることで『できる』に変わっていく。これまであきらめていたことも、『できる』に変えられる。それが子どもたちにも伝わったし、私もしっかりと感じられた1年でした」(森村さん)
狛江第三小学校の荒川元邦校長は教えてくれた。
「『失敗をしないように』『トラブルが起きないように』することばかり考えていると、先生も子どもたちも新しいチャレンジができません。子どもたちに任せ、子どもたちが自分で方法を選択し、とにかくやってみる。うまくいかなければ、自分でどうすればいいのかを考える。困ったときは先生や友達と一緒に考える。それが教育です。私たちもその姿勢で臨まなければ、このコロナ禍で先には進めませんでした。
このことを改めて私たちに教えてくれたのは、特別支援学級の子どもたちであり、担任の先生でした。失敗したり、困ったりしたとき、その子ができないことを数えるのではなく、困っていることの原因を取り除き、違う方法がないかみんなで考えてやってみればいい。これは、全ての子どもたち、先生たちに通じる考え方です。タブレットやオンラインの活用はその可能性を広げる一つの方法にすぎません」