「子どもを変える」のでなく「環境を変える」
日本の公立小中学校の中には、知的障害や身体障害、自閉症や情緒障害のある子どもたちの学びの場として「特別支援学級」が設置されており、2019年度には約28万人が在籍。このうちの約半数が、自閉症や情緒障害を持つ子どもたちで、10年前の2.7倍になっている。
こうした子どもたちは、対人関係に困難を抱え、興味や関心が狭く特定のものにこだわる、感情や気分のコントロールが難しいなどの傾向があるため、自閉症・情緒障害特別支援学級では、安心して学習に集中するために必要な支援を行っている。
東京都狛江市立狛江第三小学校には、3年前から自閉症・情緒障害特別支援学級が設置されている。知的に障害のない子どもたちが通う少人数の学級だ。
大人数の通常の教室ではさまざまな音やにおい、人の視線が気になる、大勢の前での発表に抵抗がある、長時間同じ姿勢でいられないなど、集中して学習に取り組むことが難しくても、狛江三小の特別支援学級では一人ひとりに合ったペースや方法を選んで学ぶことができる。担任は指導教諭の森村美和子さんだ。
「子どもたちに『ここはどんなところ?』とたずねると、『静かに勉強でき、楽しいところ。自分のペースで勉強できる』『少人数で雰囲気も良くて学校に来やすくなりました』と教えてくれます」(担任・森村さん)
環境のデザインにも大きな特徴がある。教室の机や椅子は通常の学級とは全く異なる。教室の真ん中にはみんなで囲むことのできる机を用意し、その脇にはそれぞれが落ち着いて学べる個別のスペースを確保している。教室の一部に畳を敷いたり、段ボールで小さな部屋を作ったりしてリラックスできるスペースを自分たちで作ることもできる。
環境を整えることで、子どもたちは得意な力を伸ばせるようになるという。「集中できない子どもたち」を変えるのではなく、「子どもたちが集中できない環境」を変える。これはどんな子どもたちにも必要なことだ。特別支援学級の子どもたちは、すべての子どもたちへの大切な視点を教えてくれる。
「基本は、子どもの好き、子どもの世界を楽しむことです。自分の気持ちを話せる場を作ることを心がけながら、教科学習にもつなげていく。子どもたちの声に耳を傾けながら、その子がどのように学ぶのがいいのかを一緒に考える毎日です」(担任・森村さん)