カレーライスが嫌いな理由

教育課程(カリキュラム)や教科書などは通常の学級と同じで、少人数での教科学習や委員会、行事などもある。通常の学級にも交流という形で参加することができるほか、自立活動という特別プログラムを組むこともできる。

「自立活動の一つとして、『気持ちコップ君』を使って気持ちを表現し、友達と共有する時間を作っています。あるテーマに対して、自分の気持ちに近いところにコップを置き、その理由を伝え合います。例えば、ほとんどの子どもたちに人気のカレーライスですが、このクラスでは、あまり好きではない子どもたちが多いのです。その理由を聞くと、『ジャガイモとニンジンの味が同時にして耐えがたい』『絵的にどうかと思う』『白いご飯は別にして食べたい』と教えてくれました」(担任・森村さん)

「気持ちコップ君」を使った授業の様子
写真提供=狛江市立狛江第三小学校
「気持ちコップ君」を使った授業の様子

こうした感覚の過敏さが、ほかの子どもたちとの違いを感じることにつながり、教室で過ごしづらくなることも多い。教室では「たくさんの音が気になって集中できない」「においが気になる」「視線が怖いので緊張してしまう」こともある。しかし、ヘッドホン状のイヤーマフをして音を遮断したり、パーテーションなどを立てて周りの視線をさえぎったりすることで集中できるようになる。自分の気持ちを言語化すれば、自分で対策を考えられるようになるという。

学校に来られなくなった子どものリモート授業

狛江市では、GIGAスクール構想により昨年2020年10月に1人1台のタブレットパソコンが配備された。しかし2018年度にはすでに各小中学校に80台ずつ、特別支援学級がある学校にはさらに10台多くタブレットが配備されており、このクラスでも、授業で積極的にタブレットを活用していた。

人前で発表することが苦手でも、パーテーションの後ろに立ちプレゼンソフトを使えば、知らない人がいる前でも発表ができる。プログラミングの授業では、ゲーム作りや作曲などでその力を発揮し、先生たちを驚かせていた。

タブレット活用が進んでいたことは、コロナ禍でも生きた。子どもたちはすでにタブレットに慣れているため、オンラインの導入に必要なのは発想の転換と学校の決断だった。

「今まで、タブレットをオンラインでつなぐことは全く思いつかなかったのですが、コロナ禍で教員もオンライン会議をするようになり、授業でも使えるのではないかと思いました」(担任・森村さん)

試行錯誤しながらオンラインを使って新しい取り組みにも挑戦した。特別支援学級の教室から通常級の授業にオンラインでつなぐことができるようになり、通常級の子どもたちとのコミュニケーションも自然に増えていった。

「『授業中にオンラインの対応をしてもらうのは難しいかもしれない』と思いながら、特別支援学級と通常級をつなげたいと相談すると、通常級で授業をする教員も『やってみましょう』と快諾してくれました。オンラインなら集団に入る大変さが軽減されます。友達に質問をしたり、クラスの様子を見たり、進み具合を聞いたりすることも気軽にでき、気持ちが不安定になったときには画面を消すこともできます。

集団に入ることで疲れて授業に集中できない子どもたちにとっては、今までは『自分がダメだからできない』と思っていたことが、環境さえ整えればできることがわかって自信につながりました。何度かオンラインでつなぐと安心できるのか、『今日はみんながいる(通常級の)教室に行ってみようかな』と自分から言うことも増えています」(森村さん)

自宅と教室をつないだ図工の授業の様子。作業台の上にタブレットを置けば、クラスメートの隣にいる感覚で創作活動ができる。写真=狛江市立狛江第三小学校提供
自宅と教室をつないだ図工の授業の様子。作業台の上にタブレットを置けば、クラスメートの隣にいる感覚で創作活動ができる。写真=狛江市立狛江第三小学校提供

昨年春の一斉休校の後には、学校に来られなくなった子もいたが、自宅と教室を直接オンラインでつないで授業に参加することができ、出席が認められるようにもなった。

森村さんは語る。

「一斉休校の後、子どもたちも気持ちが不安定になりましたし、私自身もどうしていいかわからず落ち込んでいました。でも、その時の校長先生の言葉に本当に救われました」

校長の荒川さんは、森村さんにこう伝えていた。

「常識にとらわれず、子どもたちにとっていいと思うものなら、なんでもやってみるといい」

「(教室と外部をインターネットでライブでつなぐ)オンラインに最初に取り組んだのは2020年7月のことでしたが、校長に相談したらすぐに狛江市教育委員会に確認して許可をもらうことができました。おかげで、大学や企業など、外部との連携も進めることができました」と森村さんは振り返る。