腸内細菌のバランスが崩れるとがんや神経疾患を誘引する

大腸には1000種類、100兆個の細菌が生息していると言われている。

腸内細菌は大きく「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つに分類、それらの構成は「善玉菌」が2割、「悪玉菌」が1割、「日和見菌」が7割だ。

「健康な時は善玉菌の働きが活発で、日和見菌もおとなしく、悪玉菌の増殖を防いでくれています。けれども、悪玉菌が通常の比率より上がると、日和見菌も悪玉菌と同じように悪い働きをしてしまうんです」

こう説明するのは、やはりとりだい病院消化器内科のくるみ裕貴助教である。

ただ、腸内細菌についてはまだ不明な部分が多い。また、善玉菌、悪玉菌、日和見菌のもっとも良い割合は個人差があるとされている。分かっているのは、それぞれ個人にとって最良のバランスを保つことである。このバランスを崩すこと――「ディスバイオーシス」に陥らないことが大切であるのだ。

「ディスバイオーシスを引き起こす要因は、食事、環境、ストレス、睡眠、薬剤などです。ディスバイオーシスになると、身近な症状としては下痢や便秘になります。また近年の研究によってディスバイオーシスが、炎症や免疫機能の異常を介して、がんや神経疾患など様々な病気に関連することが分かってきました」(菓)

さらに、“国民病”ともいえる、便秘も腸内環境の乱れが原因とされている。

診察する医師
撮影=中村治

「便秘立派な病気」安易に下剤を使ってはいけない理由

便秘はエビデンスに基づいて治療しなければならない。だから患者からの相談は必要なのだ。

実は便秘には確固たる定義がなく、学会などでそれぞれの基準が存在する。

排便回数が週に3回未満と定義するところもあれば、便が出にくい、硬い、残便感があるなど、排便にともなう不快な症状も含めて全部便秘と規定することもある。年齢とともに増える傾向で、若年から中高年層までは女性が多く、高齢になると男性が増える。

便秘は大きく3つの種類に分けられる。

まずは病気に続発する症候性便秘だ。例えば糖尿病の人が便秘になりやすいのは、腸を動かす神経が鈍くなるからである。

2つめは薬剤性便秘。これは薬の服用の副作用として起こる便秘を指す。

そして一般的に多いのが3番目の習慣性便秘。大腸の蠕動ぜんどう運動が低下すると、便が大腸にとどまる時間が長くなる。そこで水分がさらに吸収され、硬くなってしまった便が排泄されにくくなるのだ。

便秘で悩む人の多くは、薬局で購入できる便秘薬を服用しているはずだ。そのほとんどは便を柔らかくする緩下剤、あるいは腸の粘膜などを刺激して排便を起こさせる刺激性下剤である。ところが特に刺激性下剤の連続服用は腸の力を弱めてしまう。

「みんな、便秘を病気だと思っていないんですよね。安易に刺激性の下剤を使われますが、本当はファーストチョイスで使っちゃいけない薬なんです」(河口)

2017年、便秘治療のガイドラインが更新され、新しい仕組みの便秘薬が次々と出された。これらは医師による処方箋が必要だ。

「便秘は立派な病気! 困っていることがあれば消化器内科医にどんどん相談していいと思います。お医者さんでちゃんと治療をしないと逆に大変なことになりかねない」(河口)

便秘についての相談は、消化器内科を専門とする病院であれば対応してくれる。