2013年には4000億円の債務を帳消しに
実は日本ほどではないとはいえ、他の諸国も、2011年の民主化プロセスの開始後、ミャンマーに対する援助額を増加させてはいた。他国と同様に、軍政期には援助額を停滞気味にさせていた日本は、他を圧倒するようなODAの増額を果たすために、それまで累積していたミャンマー向けの貸付金を一気に帳消しにするという作戦に出た。多額の未払金が残ったままでは、新規の援助の大幅増額が困難だったからだ。
そこで2013年に、約2000億円の債権放棄を行った。さらに手続き上の理由から債権放棄ができなかった約2000億円について、同額の融資を一気に行い、それを原資にして即座の名目的な返還を果たさせるという離れ技まで行った。
つまり日本政府は、ミャンマーで焦げ付いていた約4000億円の貸付金を、日本の納税者に負担させる形で一気に帳消しにして、さらなる融資の工面に乗り出した。それもこれも全て、ミャンマーを「アジア最後のフロンティア」と見込んだ経済的願望があればこそであった。
軍部を擁護してきたかいはあったのか
その後もODAという名目でミャンマーに貸し付けた資金は回収されていない。むしろ今回の事件で回収が困難になってきたという印象は否めない。そもそも市民を殺戮してまで権力にしがみつくミャンマー軍幹部が、日本から借りたお金をコツコツと返却するために努力するような人物であるようには見えない。借金は返還できなければ、以前のように踏み倒すだけだろう。
国家と国家の間の貸し借りで、返還がなかったからといって、差し押さえなどの措置を取ることはできない。日本ができるのは、市民に銃を向けて殺戮している虐殺者たちに、ただただひたすら返金をお願いする陳情をすることだけだ。それどころか、以前にように、新たな融資でとりあえず名目的に補塡させるしか手がないなどといったことになれば、再び日本の納税者を借金地獄に引き込むしか手がなくなるだろう。
現在、ミャンマー軍幹部に標的制裁をかけている欧米諸国に対して、日本では「欧米はミャンマーと付き合いが浅いから簡単にそういうことができる」といった言い方をする方が多い。しかしこれは見方を変えれば、ミャンマー軍が権力を握り続けた民主化プロセスに懐疑的だった欧米諸国に対して、事あるごとにミャンマーを擁護する立場をとり続けてきた日本のリスク管理の甘さが問われている事態だとも言えるわけである。
このような事情を持つ「金」で成立している「パイプ」を、いかに日本人が日本国内で日本語で日本人向けに誇示しようとも、国際的には同じようには認められないのは、致し方のないところもある。