間違い①「デジタル化」を目的にしてしまう
DXの本質は、デジタル時代にふさわしい経営戦略やビジネスモデルを明らかにし、それを実現するためにデジタル技術を活用するところにある。DXに関する研究と教育に関する第一人者であるデビッド・ロジャーズ(コロンビア大学ビジネススクール教授)も、“DX is not about technology, but about new ways of thinking.” DXとは、デジタル技術に関するものではなく、むしろ新しい思考方法そのものだと述べている。
コロンビア大学院の講義に先立ち、日本におけるDXの状況を明らかにするために調査を実施した(実施時期:2021年3月2日~5日、調査対象:デジタル化プロジェクトの経験がある日本企業の責任者や管理者。対象企業:2974社、回答率:13.2%、有効回答数:392)。
図表2は、その結果を表したチャートだ。「顧客価値の向上」と「業務効率の向上」という2つの目的を掲げてプロジェクトを推進した企業(右上「1」)の成果が平均3.67と、最も高くなった。次に成果が高かったのが、顧客価値か業務効率のどちらかを目指して取り組んだ企業(左上「2」と右下「4」)で、平均3.24。いずれも目的とせず、とりあえずDXプロジェクトを実施した企業(左下「3」)の成果が最も低く、平均3.08だった。
「とりあえずデジタル化」だと失敗する
私自身も、これまで見てきたDXの事例から、明確な目的を持たずに行うDXプロジェクトは失敗しやすいと感じていたが、目的を掲げたDXの方が成果につながることがデータでも表された。
いずれも目的としなかった企業(左下「3」)の数は最も多かった(n=140社)。「DXでどのように顧客価値や業務効率を向上させるのか」という戦略を持たなかったり、またはその戦略を関係者の間でしっかり共有しないままで「とりあえずデジタル化しなくては」とプロジェクトに着手する企業は実際多い。
ある大手製造業の例をご紹介したい。この会社の営業部門では、顧客ごとに販売履歴や受注にいたるまでの取引記録をデジタル化して、そのデータを新たな商品開発や営業提案に結びつけようというプロジェクトが進められた。
何十年にもわたる各顧客との取引記録が、書類やさまざまな形式のデータとしてバラバラに保管されていたが、システム会社の支援も仰ぎ、統一された顧客データベースにまとめることができた。完成にはかなりの金額と時間がかかったのだが、営業提案や商品開発には全く使われることがなかった。典型的な「戦略なきデジタル化」による失敗だ。