日本企業の論理に合わない、MITやスタンフォード卒の人材はほとんどが出井さんのいうデジタル・ドリーム・キッズですよ。スタンフォードのMBAにいる人たちは大部分が起業しますし、彼らはむしろ起業しないことのほうが人生にとってリスクだという発想を持っています。

ジョブズも、いわばデジタル・ドリーム・キッズの1人です。世代はもちろんだいぶ上ですが、やっぱり子どもみたいな夢やアイデアを語って、周囲を巻き込んでいた。デジタル・ドリーム・キッズ率いるアップルが、最初にハードとソフトの融合モデルを作ることに成功したことは決して偶然ではないでしょう。

技術はあってもアイデアがなかったソニー

結局iPodなりiPhoneというハードと、iOS、iTunesというソフト上のクラウドベースの技術というものを結びつけるということに、彼らが先に成功しちゃった最大の要因は、デジタル化にわくわくしていて、新しいゲームのルールをいち早く理解していたからです。

結果として、ウォークマンはiPodに殺されてしまった。教訓として忘れてはならないのは、アップルが駆使していたそれぞれの技術を単体で見ていくとソニーも持っていたことです。ソフトもハードもアップルが持っているものはすべて持っているのに、それを結びつけて、すべて統合したサービスでユーザーを獲得するという発想だけが欠如していたんです。

ビンテージのウォークマンとヘッドフォン
写真=iStock.com/jirkaejc
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ソニーはガラケーを作っていましたから、電話もついたウォークマン、そしてダウンロードデータで勝負するという発想があれば、iPhoneより時代に先駆けたサービスを展開できたかもしれません。しかし、結果としてそんな未来は実現できなかった。

iPodが出てきてウォークマンは市場を奪われ、iPhoneが出てきたときに日本のガラケーの市場も奪われ、まさに構造そのものを変えるようなゲームをやられた時に、ソニー、多くの日本企業は対応できなかったんです。

本質はパナソニックと同じで、イノベーティブに見えているけれども、やってきたことは、アナログ型のハードウエアの大量生産、大量消費、大量販売がベースにあって、そこを変えるのに苦労したんです。要はアスリートとして運動能力の優れた人はたくさんいたけど、ほぼ全員、野球選手だった。そこに同じ球技だけど全く違うサッカー競技をアップルが持ち込んで、世の中はサッカーのほうに流れてしまったんです。