憲法9条に関する価値観で評価が割れる

外交安保リアリズムとは、憲法改正や日米同盟強化、自衛隊の役割拡大などに賛同する立場であり、現実主義に基づいて一定の軍備を必要とする考え方である。外交安保リベラルとは、憲法改正や日米同盟強化に反対し、自衛隊の役割の拡大にもくみしない立場で、より限定された軍備を望む考え方だ。

4本の折れ線グラフは、自民党をどのように評価するかという回答別にそれぞれのグループの価値観の平均値を示している。プラスは設問への賛意を、マイナスは設問への反対を意味する。

一見して、憲法9条やその解釈が関わるもの、日米同盟に関するものが党派的な分断を創り出していることがよくわかる。より具体的には、日米同盟強化への賛否、憲法9条改正の是非、集団的自衛権行使容認の是非、あるいは防衛費増額への賛否である。

戦後日本においては憲法と安保をめぐる左右対立が硬直化し、陣営を超えた対話がほとんど不可能な状況が続いてきたため、それ以外の論点は中心的な問題になりにくい構造があった。日本人価値観調査では、過去2回の国政選挙の4回の投票行動(各選挙の選挙区、比例代表)において、自民党への投票に最も結びついた要素は、憲法と安保をめぐる象徴的な価値観であった。

経済や福祉よりも憲法9条に関する価値観が投票行動を決める

続いて、社会的価値観を横軸に、外交安保に関する価値観を縦軸に置いた分布を示す図表5をご覧いただきたい。2019年の参院選における比例代表の投票先(自民、立憲)ごとに色分けしてある。

ご覧のように、経済に関する価値観よりも外交安保に関する価値観の違いの方が投票に強く影響を与えていることが見て取れる。自民党支持者はほとんどが外交安保リアリズムの価値観を有しており、立憲民主党支持者は外交安保でリベラル寄りの人が多く含まれる。

新聞報道などで2019年の参院選の争点とされたのは年金問題であり、消費税だった。選挙の直前に、金融庁の審議会が出した報告書の老後資金に関わる記述で「2000万円」と記載があったことから、そんなに貯蓄が必要なのかという印象が広がり、老後不安を訴える声が高まった。

時事通信が行った参院選の出口調査では、有権者が最も重視した政策分野は「年金・介護・医療」で、全体の23.9%を占めたという。しかし、これまで示してきたように、有権者の価値観は多くの分野でそれほど食い違っておらず、政策選好にも違いが出にくい。人びとが表向き重視すると答える政策が必ずしも投票の原動力となっているわけではないことには注意が必要だ。

例えば、福祉をより充実させると公約したからと言って、福祉重視と回答した有権者の票が惹きつけられるとは限らない。大前提として憲法と安保に関する価値観が人びとを分断し、特定の政党に投票するときの判断材料として働いているからである。

つまり、この場合人々がどの政策を重視すると答えるかということと、ある政党に投票する動機は異なっており、人びとに正面から理由を聞いても、かえって真実から遠ざかる場合があるということだ。