SNSによってバランス感覚を失った政治家

日本でも、野党の政治家が社会リベラル化しつつある。

政治家の発言や東大・朝日新聞アンケートに対する政治家の回答の変遷を見れば、野党が社会問題の党派化を試みているのは明らかだ。一方で、自民党の政治家は政権を担うようになると社会保守から中道へと近づく。それは、与党の支持者が社会的には多様だからである。

米国ならばそのような現象はなかなか起きにくく、むしろトランプ大統領などは中絶などをめぐって自らの従前の立場よりも社会保守化する傾向がみられた。日本のテレビ局は放送法上、公正・中立を旨とした放送をしなければならないことになっているが、有権者もその延長線上の感覚で、まるでテニスの審判のように政治を見ている。具体的な政党に自らを投影するほど政治を自分事としてみる人はごく一部にすぎない。

しかし、情報化社会の進展によって一部の空間では雰囲気が様変わりしている。大手マスメディア以外に情報収集・交換する場ができ、SNSの登場により個々人の意見が公開の場で晒されるようになった。人びとが直接意見交換し、政治家もツイッターで一般人とやり取りをする。

こうした言論空間に触れていると、政治家はイデオロギー化しやすくなる。SNSで政治的な発信をしている有権者はごく少数であるのに、政治家はそれを支持者の代表的意見だと勘違いしがちだからだ。もちろん、同じことが政治家の個人後援会や支持組織との交流についても当てはまる。日頃、接している人が政治化された少数の人であればあるほど、世論の理解が偏ったものになりがち、というように。

自民党と立憲民主との支持層はほぼ変わらない

しかし、実際には、有権者は政治家が日々触れ合う存在よりももっと広大で多様である。図表1を用いて考えることにしたいと思う。

図表1は、図表2の「日本人価値観調査」の分布図のうち、2019年の参議院選挙の比例代表で自民党に投票した人を赤に、立憲民主党に投票した人を青にそれぞれ色分けしたものである。

自民党は社会保守的政党だと考えられがちだ。しかし、図表1の左のグラフを一瞥して分かるように、社会的価値観はバランスよく保守とリベラルに分散している。横軸で見ると、経済的には保守寄りの支持者を多く抱えていることが分かる。

図表1の右のグラフでは、その自民党投票者の上に立憲民主党への投票者を重ねて散布図を作成しているが、これが示すように、両党の支持者の分布にはほとんど違いはない。米国のように、経済リベラルに大きく振り切れた有権者の塊がいるわけではないし、立憲民主党支持者は自民党よりも僅かに中道リベラル寄りの傾向を示しているにすぎない。

社会的にもリベラルから保守まで幅広い。米国の有権者が共和党と民主党できっぱりと価値観が分かれているのに比べると対照的だ。