日本人の社会的価値観は大きなバラつきがない

2019年の参院選での比例代表への投票行動は、経済政策×社会政策をめぐる価値観では切り分けられない。経済政策に関わる価値観は、自民党に対する高評価層の方が成長重視で、低評価層の方が分配重視だが、参院選での投票行動と関連付けて一人一人の価値観分布を見れば、自民党投票者も立憲民主党投票者も価値観がばらけているのである。

つまり、経済と社会に関わる価値観だけで見ると、経済成長を重視する人は自民党に投票する可能性が高く、成長をそこまで優先度の高い項目と考えない人は立憲民主党に投票する可能性が高いということが確率論として言えるが、その確率はさほど大きな差ではない。

立憲民主党はここしばらく社会リベラル的価値観と分配強化の二つを強く打ち出してきているが、必ずしも集票効果にはつながっていないということである。

そこで、社会的な価値観をめぐる回答結果が自民党への評価にどのような違いをもたらしているのかを見てみよう(図表3)。

4本の折れ線グラフは、それぞれ自民党をどれだけ評価するかでグループ分けして、グループごとに設問への回答の平均点を示している。プラスは設問に対する賛成を、マイナスは反対を意味している。

簡単に言えば、4本の線が互いに離れるところが党派的な対立が大きいところで、くっついているところが党派的な対立がない日本人の平均的価値観が支配する領域ということになる。

唯一の対立となっている「外交安保問題」

図表3から明らかなように、原発をめぐる立場を除けば、日本における社会的価値観に党派性による大きな差は見られない。夫婦別姓だけ、自民党を高く評価すると答えたコア支持層(回答者全体の8%)がわずかに中立から保守よりの回答をしているが、その差自体は大きなものとは言えない。

銃規制、中絶、宗教、人種などを巡って社会的価値観に大きな分断があるアメリカとは異なり、日本は社会的価値観がいまだ分断を創り出してはいないということだ。過去には厚労相の「産む機械」発言が真意を超えてスキャンダルになったり、女性記者への暴言で財務次官が辞任に追い込まれたりしているため、社会問題は必ずしも政局と無関係とは言えないが、党派によって有権者の価値観が分かれているとは必ずしも言えない。なぜだろう。

自民党支持者と立憲民主党支持者の経済・社会的価値観に大きな違いが出ない理由は、他に大きな対立軸があるからである。

では、何が大きな対立軸となっているのだろうか。図表4をご覧いただきたい。

図表4に示された対立軸は、外交安保上の価値観である。縦軸で上の方の保守よりに近づけば近づくほど、「外交安保リアリズム」の立場であり、下の方のリベラルよりに近づけば近づくほど、「外交安保リベラル」の立場だ。