老後資金はどのように貯めればいいのか。ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏は「金融庁が2019年に発表した『老後2000万円不足する』というレポートの土台となった調査によれば、会社員のほとんどが退職金額を知らずに定年を迎えている、と紹介されています。自分はいくらもらえるのか早い段階から把握すると同時に、iDeCoやつみたてNISAといった上積み制度を利用するべき」と指摘する――。
一万円札の束が並ぶ
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8割の会社員は「退職金額を知らずに定年を迎える」

2019年に話題になった「老後に不足する2000万円問題」。このレポートは今も金融庁のホームページに掲載されています。きちんと読んでみると「老後に2000万円」騒動の内容とは別にいくつか興味深いデータが紹介されています。

そのひとつが「会社員のほとんどは、退職金額を知らずに30年以上働き、定年を迎えている」というものです。

このレポートの元データはフィデリティ退職・投資教育研究所(現、フィデリティインスティテュート退職・投資教育研究所)が実施した調査です。そこではリタイア済みの人たちに「退職金額を知ったのはいつ頃か」と聞いています。その結果に驚かされるのです。

なんと31.6%は「退職して受け取るまで知らなかった」と回答しています。3人に1人弱は退職日に初めて、退職金額を告げられて知るのです。

続いて「定年退職前半年以内」という回答が20.3%で、60歳定年とすれば59歳半年まで自分の退職金を知らない人の割合は半分ということになります。

これに続いて「定年退職前1年以内」というのが12.0%となりますから、60歳定年の場合で59歳を過ぎてからようやく退職金額を把握する人の割合は6割強、おおむね3人に2人ということになります。

さらにアンケート回答の中には「覚えていない」という項目もあり、それが19.9%に達します。自分の退職金額を把握した時期を覚えていない、というわけです。個人的には、これは恥ずかしくて回答を拒否した、つまり退職日まで知らなかったものとしてカウントしていいと思われます。すると、全体の8割は退職金額をほとんど把握しないままリタイアを迎えることになるのです。

平均1000万円以上の退職金の額を知らずに働いている

退職金額が自分の老後にまったく影響しないほど些少であれば、知らないまま定年退職日を迎えて「臨時収入があってラッキーだった」と思うのもありでしょう。しかし「老後に2000万円」の準備のほとんどをこれが占めているとしたらどうでしょうか。

いま、退職金の相場はどれくらいでしょうか。

東京都の中小企業を対象にした調査では、大卒入社定年退職のケースでモデル金額が1203万円になります。もらえる額のボリュームゾーンはもう少し低い500万~1000万円くらいという可能性が高いですが、少なくない金額です。

退職金額は一般に企業規模が大きいほど増えます(これは賃金も高い会社ほど退職金の多くなる関係があるため)。経団連の調査ではモデル額(総合職、大卒定年)は一気に増えて2256万円になります。なんと退職金だけで老後に2000万円問題が解決する人もいるのです。

しかしながら、こうした人生を左右する大きな金額にもかかわらず、定年直前まで無知でいるというのが現実です。つまり、老後資金を「ちゃんと積み立てられているのか」「自分はいくらくらいもらえるのか」をあまり気にせず働いているわけです。考え方によっては、これはとても恐ろしいことであり、愚かなことでもあります。