ドイツに根深く残る「老紳士のジョーク」

この背景には、前述のようにドイツには20世紀の初頭から「男性同士が内輪で女性をテーマにした性的ジョークを言うこと」(老紳士ジョーク)が市民権を得てきたからでした。

かつてのドイツの職場には男性が多く、男性が「決定権を持つポジション」にいることが多かったため、長らくドイツの職場では実質的にこの手の下ネタを含んだ「ジョーク」が許される雰囲気がありました。

現在のドイツでは多くの職種において女性が増えてきているにもかかわらず、この手の「ジョーク」を発信してしまう「癖」が抜けない男性が時折います。

Tichy氏による「Gスポット記事」の後、Chebli氏の弁護士はChebli氏の人格権が傷つけられたとして差し止め請求をしています。

問題の記事が発表された後、CSU(キリスト教社会同盟)副幹事長のDorothee Bär氏は、抗議の意味を込めてTichy氏が会長を務める先述の財団から脱会。各方面から記事への非難が止まらず、Tichy氏は会長職の辞任に追い込まれました。

同性婚が認められても続く同性愛者差別

つい何年か前まで、ドイツでは同性愛が悪いことのように扱われ、「あの人、ゲイなんじゃないの?」と噂をされることが少なくありませんでした。

インターネットで男性芸能人をドイツ語で検索をすると、名前の後に検索キーワードとしてschwul(ゲイ)と出てくることも多く、同性愛は何かと好奇の目にさらされていました。ドイツでは2017年10月に同性婚が法律で認められたにもかかわらず、いまだに一部の人の感覚はアップデートされていません。

それは政治家にも当てはまります。CDU(ドイツキリスト教民主同盟)のFriedrich Merz氏は、昨年ドイツメディアのインタビューで、「将来、ドイツで同性愛者の首相が誕生するかもしれないことについてどう思うか」という質問に対して「子供が(ゲイの大人の)対象となるのは許せない」と語りました。

同性愛をペドフィリア(小児性愛者)と同一視する偏見に満ちた考え方であることが露見し、ドイツで騒動になりました。同性愛者であり男性と結婚しているドイツの保健相Jens Spahn氏は「ゲイをペドフィリアと関連付けて考えるのは(ゲイの人々の問題ではなく)Friedrich Merz氏の問題である」と強く非難しました。

各方面から非難を受けたMerz氏は、ドイツの新聞『Die Welt』で「文脈を考慮せず発言を切り取られた」と反論したものの、同性愛者について語る際に再度ペドフィリアに言及し、騒動はさらに大きくなってしまいました。