日本を代表するフィギュアスケート選手の一人、宮原知子さんは、2019年から練習拠点をカナダに移している。そこで起きた変化について、イーオンの三宅義和社長が聞いた——。(第1回/全3回)
宮原知子(フィギュアスケート選手)
写真=Getty Images
「オールジャパン メダリスト・オン・アイス 2019」での宮原知子さん

2019年、カナダのトロントに練習拠点を移した

【三宅義和(イーオン社長)】年(2020年)末の全日本選手権、おつかれさまでした。

【宮原知子(フィギュアスケート選手)】ありがとうございます。

【三宅】宮原さんは2019年秋から練習拠点をカナダのトロントに移されているわけですが、年末に全日本選手権があると、そのままご家族揃ってお正月を迎えることができて好都合ですね。

【宮原】そうなんです。おかげさまで、いいリフレッシュができています。

【三宅】宮原さんといえば、「ミス・パーフェクト」という呼び名がつくほど、安定していい演技をされることで有名ですが、いまはご自身のテーマを「ミス・チャレンジ」に変えられたそうですね。

【宮原】はい、いままではミスをしないことをかなり意識してやってきたおかげもあり、それなりの成果を残せてきたのですが、どうしてもブレイクスルーを起こせないというか、殻を破れずにいる自分がいたんです。

この状態のままいくら練習を続けても、次のステージに上がれないかもしれないと思うようになり、心機一転、「これからは失敗を恐れずに、できるチャレンジは全部やろう」という気持ちに切り替えたんです。その第一歩が、日本を離れてトロントに練習拠点を移すことでした。

【三宅】文字どおりのチャレンジですね。

【宮原】はい、かなり勇気を振り絞って決めました。ただ、英語の勉強は子どものころからずっとやってきていましたから、言語面での不安があまりなかったのは良かったと思います。

【三宅】では、現地で生活していて、英語で苦労することはあまりないのですか?

【宮原】そうですね。会話の内容がスケートに関することがほとんどということもありますが、なんとかなっています。

練習内容も休日も、全部自分で決めなければならない

【三宅】練習の拠点をカナダに移されて、カルチャーギャップみたいなものを感じましたか?

【宮原】一番驚いたのは「練習内容を基本的に全部自分で決めないといけない」という点です。日本にいるときは「今日はこれをやりましょう」とか「試合に向けて今後はこういう計画で行きましょう」とか、すべてコーチから指示を受けるスタイルだったのですが、カナダでは「この日のこの枠では、なにをするか」とか「試合に向けてどの日に休みを入れたいか」ということまで、すべて自分で決めないといけません。

いきなり「どうする?」「どうしたい?」と意見を聞かれても、いままで自分で考えたことがなかったので、最初はかなり戸惑いました。たとえば、休日を入れるにしても、それが正しいことなのかどうかもわからなかったので。

【三宅】それは大きな変化ですよね。自己決定を促されるのは、欧米では当たり前のことですが、そこまで主体性が求められる機会は、スポーツの世界だけでなく、会社、学校、家庭などを含めても、日本ではなかなかない気がします。

【宮原】はい。でも、だんだん慣れてきて、最近はこのほうがいいのかなと思うようになりました。