スズキとダイハツの「軽・戦争」の帰結

中国のように小型EVが普及した場合、スズキを含めて業界が最も恐れるのが車の「価格破壊」だ。

日本の自動車各社は少子化や若者の車離れに伴う販売台数の落ち込みに対応するため、過当競争を避け、なるべく車両価格を維持・引き上げる施策を取り始めている。その契機となったのが、スズキとダイハツ工業の「軽・戦争」だった。

引き金を引いたのはダイハツが2011年に発売した「ミライース」。ガソリン1リットル当たり35キロメートルの低燃費と70万円台からの低価格を実現したヒット車で、軽自動車業界を席巻した。

当時、ダイハツの陣頭指揮を執ったのがトヨタで副社長まで上り詰めた白水宏典会長(当時)だ。トヨタの購買や開発部門にいた経験を活かし、調達部品の見直しやエンジンの技術革新などで燃費・価格面でスズキを凌駕した。

当然、スズキも応戦したが、研究開発費を渋ってきたスズキは技術面で追い付かない。赤字覚悟で応戦、消耗戦に陥っていった。

なかなか優位に立てないスズキは、燃費・品質不正を起こしてしまう。2016年にはその責任をとって修氏は最高経営責任者(CEO)職を返上し、俊宏氏が社長とCEOを兼務することになった。

中国製EVの「価格破壊」で、均衡が崩れる恐れ

軽自動車での消耗戦は、競合するトヨタの「ヴィッツ」など小型車の価格戦略などにも影響する。軽の価格が下がれば、小型車との価格差は広がる。結果として、トヨタの小型車も値下げせざるを得なくなる。そこでしびれをきらしたトヨタがスズキとダイハツの間に入って事態の収拾に動いた。

まずトヨタは、過半を出資していたダイハツを完全子会社化し、非上場にした。トヨタから社長を派遣、トヨタのコントロール下で価格戦略を見直した。その後、修会長からの要請を受け入れ、スズキと資本提携し、軽自動車メーカー間での価格競争が激化しづらい体制を築き上げた。

しかし、中国製の安価な小型EVが普及するようになると「価格破壊」を通じて、一気にこの均衡が崩れることになる。出光や中国勢、さらには米テスラのような新興勢はディーラーを持たずにユーザーにネットなどを通じて直販する。

「宏光MINI-EV」の車内。4人乗りでバックシートは倒すこともできる。
写真=上汽通用五菱ウェブサイトより
「宏光MINI-EV」の車内。4人乗りでバックシートは倒すこともできる。

実際、出光も基本はガソリンスタンドでの直接販売だ。既存の自動車各社が多額の資金を使ってディーラー網を維持しているのとは異なり、販売網維持のためのコストがかからないため、その分、価格競争力は底上げされる。

シェアリングなどのサービスも予定しており、普及すれば重い販売網を抱える既存のディーラーは新車販売も落ち込み、窮地に陥る。