電動化の義務付けは「軽自動車」の存続に直結
政府は2030年代半ばに新車販売を電動車のみとする目標を掲げたが、軽自動車も対象に入れるかどうかが大きな焦点となった。これまでの修会長なら当然、軽の電動化について反対すると思われていた。スズキは電動化に遅れていることに加え、電動化はコストアップにつながる。「庶民の足」を標榜する軽メーカーにとって、電動化を義務付けられることは業界の存続に直結する。
しかし、大方の予想に反して修会長は、目立った反論もせずにこれを受け入れた。
軽の規格や優遇税制など国会議員や霞が関に張り巡らせた人脈を駆使して数々の優遇を勝ち取ってきたのは修会長だ。それだけに、黙認に近い今回のスズキの対応に業界内から「修氏はかつての勢いはない」との声が聞かれた。
スズキは2月24日の会見で2026年までの中期計画を公表。5年間で累計1兆円の研究開発費を投じて電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などの開発に充てるとしたが「価格などの面で軽の優位性をどこまで発揮できるか、非常にハードルは高い」(大手証券アナリスト)と指摘されている。
約47万円で120kmを走る4人乗り中国製EV
スズキをめぐる問題は政府の掲げる「脱炭素」への対応だけにとどまらない。
軽自動車と正面から競合する超小型EVの相次ぐ参入だ。特に脅威となる存在として浮上しているのが中国勢の動きだ。
中国では現在、50万円程度の小型EVが業界の勢力地図を書き換えるまでの存在になっている。1回の充電で走れる距離は百数十キロメートルにとどまるが、基本性能を日常生活に使うための最小限の要素に抑え、価格の引き下げに成功している。その象徴的存在が「宏光MINI EV」だ。
同車は国有企業の上海汽車集団が過半を出資し、米ゼネラル・モーターズも株主に加わっている五菱汽車が製造販売している。全長2.9メートル、幅1.5メートルと小型ながら4人乗り。価格は2万8800元(約47万円)からだ。基本モデルの航続距離は120キロメートル、最高時速は100キロメートルで、エアコンがつかないなど基本性能は限定的だが、専用の充電器は不要で家庭用電源で充電できる手軽さがウリだ。
グレードは3つあり、冷暖房完備の中級グレードは3万2800元(約54万円)、電池容量が大きく航続距離が約40キロメートル長い上級グレードは3万8800元(約64万円)となる。