不安な時代、本棚にズラリと並ぶ自己啓発本

電車に乗ると、車内広告を見るようにしています。

落語家だからでしょうか、やはり市井の空気感からネタを作ろうという心がけからではありますが、時節柄受験シーズンが佳境ということもあり、予備校の広告が目につきます。

でも「なんで私が東大に?」と聞かれても、「あなたが受けたからでしょう」としか答えようはありません。

あとは美人女優がにこやかに無利息でお金を貸しますという広告を見ると「返せなかったらこの笑顔はどうなるんだろうな」と思いますが、おおむね車内吊りの広告が「男性は増毛」で「女性は脱毛」という図式を見るにつけ、このコロナ禍でもやはり悩ましいのは毛なのかとほほ笑ましく思えます。

要するに、電車の中から「不安」をあおるのがこの国の実情なのかもしれません。気晴らしに駅ビルの書店に入りますと、さらにその思いが強くなります。所狭しと並べられているのが、自己啓発書やビジネス書の類いです。タイトルも似通っていれば、書かれている内容も同じような気がします。

図書館で本を読む男性
写真=iStock.com/Satoshi-K
※写真はイメージです

「9割」とか「話し方」とか、「売り上げの伸ばし方」「ハーバード大学」などのキーワードが目立ちます。しかも一様に白い表紙ばかりがずらりと並んでいます。これがいわゆる「売れ線」なのでしょうか。

そのうちに、「人生は9割が90パーセント」「人の見かけは外見で決まる」「ハーバード大学で学んだ『しゃべり方を変えるだけで話がうまくなる』」などという本が出てくるかもしれません(笑)。

私もこの8年間で17冊もの本を出し、今年も5月に初小説が文庫化されるなど、数冊出版する予定ですが、常に心掛けていることは、「売れ筋の本の後を決して追わないこと」です。このあたりは必ず編集者やライターさんとも共有している点です。そのせいか先日とある優秀な編集者さんから、「談慶さんの本は売れたビジネス書ばかり読み続けて疲れ果てた人が、最後にたどり着くようにして安心して読める本ですね」と言われ、非常にうれしく感じました。

そこが落語をベースにしている私の強みであり、特徴なのでしょう。