一件あたり売り上げは約430万円…農業の世界は「超格差社会」

大学を出た小野氏は、社会人としての経験と起業したときのお金周りの知識を積むために、外資系金融機関に就職する。デリバティブ金融商品の開発に従事し、高度金融経済の最先端の世界に2年間身を置いた。そこで得た知識は、いま坂ノ途中が資金調達をする上でも少なからず役に立っていると言う。

ロープにとまるトンボ
撮影=佐藤新也

「自然環境への負荷の低減」を企業理念に置く坂ノ途中では、個人向けの有機農業野菜のネット通販を事業の主軸に置く。2016年からは、東南アジアにも活動の幅を広げ、ラオスやミャンマーなどの山間地でコーヒーの品質向上を行う「海ノ向こうコーヒー」も展開している。

坂ノ途中の事業の背景には、「環境への負担の小さい農業への挑戦をビジネスとして成り立つようにしていきたい」という小野氏の思いがある。現在の日本には、兼業農家を含めて約170万戸の農家が存在し、農業生産額の合計は酪農を入れて8兆円の規模になる。この金額を戸数で割ると、一戸あたり約430万円という数字が出てくる。

「農業の世界は『超格差社会』で、昔からの地主の家系は、代々先祖から受け継いだ広い土地で効率的な農業ができます。それに対し、都市に住んでいた住人が脱サラして農業を始めたいと思っても、猫の額ほどの土地しか手に入れることはできず、ビジネスとして軌道に乗せるまでに、相当苦労しているのが現実です」

少量不安定な農産物を仕入れて新規就農者を支援

新規就農者を増やすために、坂ノ途中ではさまざまな支援を行っている。未経験から農業を志す人の多くは、有機農業や、化学肥料や農薬の使用量を減らして体に良いおいしい農産物の生産をしたいという志を抱いている。

しかし現実問題として、借りたり購入できる農地は狭かったり、日当たりや水はけが悪かったりなど、条件が良くないことも珍しくない。そうした土地で一生懸命に有機農法で野菜を育てても、少量かつ不安定な生産量となってしまうことから、販路を確保できずに農業を諦めてしまうケースが多々ある。

農協や大手の野菜卸売業者が扱うことを避けるそうした少量不安定な農産物を、坂ノ途中は積極的に仕入れることで新規就農者を支援する。これまでにたくさんの新規就農者を見てきて蓄積されたノウハウを活かし、土地や環境に合わせてどのような作物をどれだけ、どのように育て、どのような物流を用いれば持続的に利益を出せるか、相談にのることも増えてきた。

それは環境に与える負荷が低く、おいしくて健康に良い野菜の供給量を増やし、農業を持続可能な営みにしていくことが自分たちの使命と考えているからだ。