有機野菜のネット販売・卸売業を営む「坂ノ途中」(京都市)が好調だ。特にネット販売が急増しており、この1年で会員数は2倍以上に増えた。小野邦彦代表は「創業時に3軒だった提携農家さんは、この10年で300軒以上になった。そのうち9割を占める新規就農者が、努力に応じてまっとうに稼げる仕組みを作りたい」という――。
坂ノ途中代表の小野邦彦氏。写真撮影は新型コロナウイルスの感染拡大以前に実施(以下同)
撮影=佐藤新也
坂ノ途中代表の小野邦彦氏。写真撮影は新型コロナウイルスの感染拡大以前に実施(以下同)

有機野菜のネット販売で会員数はコロナ前の約2倍

新型コロナウイルスの流行によりさまざまな業種の企業が苦戦を強いられる中で、業績を伸ばしている企業もある。その1つが京都に本社を置く、有機農法を主とする旬の野菜のネット販売・卸売業を営む「坂ノ途中」だ。

同社ではコロナ禍が日本にも本格的に到来した昨年3〜5月にかけて申し込みが急増、会員数は約2倍に増えた。創業者で代表の小野邦彦氏はその理由について「この機会に、ライフスタイルを見直そうと考える人が日本全体で増えたからではないでしょうか」と語る。

「アンケートを見ると『以前から坂ノ途中のことは知っていましたが、在宅ワークで時間ができて、この機会に申し込むことにしました』という趣旨の回答がたくさんありました。うちはそれまでも年に1.5倍増のペースで会員が増えてきましたが、コロナ禍になって増え方が2.5倍くらいになりました。自宅で家族と過ごす時間が増えて、多くの人が食をはじめライフスタイルを見直すことができるようになったのが、申し込み増の背景にあると感じています」

「危機的状況」に対処することへの慣れ

会員数が増えただけでなく、注文の内容にも変化があった。同社ではさまざまな野菜のをS〜Lの3サイズの箱に詰め、2250〜4550円で販売している。それまでSサイズを注文していた人が、MやLにサイズアップしたり、注文の頻度を増やしたりしているケースが数多く見られると言う。「それはきっと外食が減って家庭で料理をすることが増えたからでしょう」と小野氏は分析する。

「以前からうちを選んでくれるお客さんは、『店に行く手間をなくして野菜を通販で買いたい』というタイプより、『どうせ食べるなら、おいしいものを選びたい』と考える人が多数を占めていました。その考えが、もともと有機農業や自然食に興味がある人だけでなく、一般の人にも広がっていると感じます」

急増した注文に対しても、社内に混乱などが起こることはなかった。そもそも自然が相手の農業に関するビジネスをしていると、常に発生する「危機的状況」に対処することに慣れてくる、と小野氏は言う。

「例えば夏に台風が来ると予報が入ると、ナス農家は台風対策として、樹を軽くするために小さいものも含めて収穫していしまいます。そういったものって一般的には販売することが難しいのですが、坂ノ途中はそれを買い取って、小さいナスならではのおいしい食べ方を紹介したり、こんな事情で今週の野菜セットにはナスがはいっていますよ」、と説明しながら販売する。

雪で物流が乱れたり、大雨で予定していた作物が欠品したりといったことも珍しくない。その度に柔軟に対応してきた経験の蓄積が、この度のコロナ禍においても事業を伸ばす原動力となった。

坂ノ途中でネット販売している有機野菜の詰め合わせの一例(Mサイズ相当)
写真=坂ノ途中
坂ノ途中でネット販売している有機野菜の詰め合わせの一例(Mサイズ相当)