政治部時代は省庁担当が長かったため、相手は官僚が多かったが、特ダネを取ってやろうなどといった気持ちで臨んだことはなく、むしろざっくばらんに話して「今日はありがとうございました」となるのが常だった。経費で落とすことも、自腹を切ることも、相手にごちそうになることもあるが、「オフレコ懇談」だから本音が何でも聞けるというような甘い世界ではない。

レストランで赤ワインを飲んでいるビジネスマン
写真=iStock.com/South_agency
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だから、実は、菅と総理番の「パンケーキ懇」の際に「菅によるメディアの取り込み」という見方もあると聞いても正直ピンとこなかった。

菅が「担当記者がいるのに名刺交換もしていないのはおかしい」と言ってセットされた懇談だったし、取り込むのが狙いなら各社の社説を書く論説委員や政治部長を相手にした方がよほど効率的だからだ。

せっかくのチャンスを逃すのはもったいない

その時に思い出したのは、「桜」問題で追及を受けていた頃に安倍が各社の官邸キャップとの「完オフ」懇談(内容は一切報じない条件付きの懇談)を持ちかけた一件だった。

タイミング的に官邸側からの誘いが露骨な懐柔策のように感じたし、毎日新聞は当時「オフレコの懇談ではなく、説明を求めている」という立場からキャップは欠席した。今回も日本学術会議の会員任命拒否問題で「オフ懇ではなく記者会見を求めている」という理由で欠席した社があったが、そういう判断は筋が通っている。

ただ、毎日新聞がキャップ懇を欠席した時、SNSで毎日新聞の記者が「参加しませんでした」「欠席を決めました」などと発信したため、あたかも「毎日新聞が金輪際、首相との懇談には出席しないと判断した」かのように誤解を与えたのはまずかった。

「首相との懇談を欠席した」ことをアピールしたい思惑があったのだとすれば、誤った判断だった。たとえ、その時は評価されたとしても、将来的に毎日新聞の関係者が首相と会食すれば、「欠席」を評価した人たちから批判を浴びるのは目に見えていたからだ。

取材できる機会があるのであれば、オンだろうが、オフだろうが、時には完オフだろうが活用すれば良い。

逆に「首相との完オフ懇談にはもう出席しない」とハッキリ意思表示するのも「権力との距離の取り方」の観点から判断としてありだと思うが、せっかくのチャンスを逃すのはもったいない。

「桜」を巡るオフ懇に行くかどうかという毎日新聞の判断は、その時々の様子を見ながら柔軟に対応しようという意図だったかもしれないが、その判断理由の説明不足や発信の拙速さという点では悪手だった。

リスキーな「メモ」

メモ取りや録音をせずに話を聞く「オフレコ」取材でも、後で記憶をたどって備忘録を残す記者は多い。かつては手書きだった取材メモも今はパソコンやスマートフォンで記録するのが主流だ。しかし、「オフレコメモ」の秘密は必ずしも守られていない。

「絶対にメモにしないでくださいよ。信じていますからね」

政治部時代、大した話をしていないのに官僚からクギを刺されることがあった。

「局長たちは取材メモが漏れることを恐れている」「取材メモが翌朝には首相官邸に届いている」などという話も聞いたことがある。