こうした話から考えると、取材内容を記録したメモが政府側に漏えいしていることが少なからずあるのだろう。記者の側でも「パソコンが遠隔でモニターされているのではないか」「社内で共有した後にどこかから漏れているのではないか」といった臆測が飛び交っていた。

「オフレコ」と名の付く会食の席での政治家の発言が、翌週には週刊誌に克明に記されているなんていうこともよくあった。

同じテーマで取材している記者同士でメモを共有することはごく一般的で、支局でも社会部でも経済部でも、どの部署でも多かれ少なかれやっていることだ。しかし、政治部のメモ共有は、それまで経験した以上の密度と頻度だった。日々のオフ取材、会見の文字起こし、国会の質疑など、ありとあらゆる取材がメモ化され、共有されていた。

記者会見でマイクを持ち、メモを書く
写真=iStock.com/Mihajlo Maricic
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政府や週刊誌に漏れている現場の取材メモ

そもそも、なぜメモを共有するのか。先述したように政治部はチーム取材が基本であり、キャップ(各クラブの筆頭格)やサブキャップが原稿のまとめ役を担うことが多い。取材メモを元にどんな原稿を書けるのかを考えるため、現場からの日々の報告は紙面作りに直結していた。

さらに原稿をチェックするデスクにも、現場の動きを知ってもらうために、情報共有はなされていた。もちろんメモを共有しない、あるいは共有先をごくごく絞る記者もいるし、取材相手や内容によって自分だけに収めておくことも時には必要だ。

驚いたのは、そうした現場からの報告が政府や週刊誌に漏れている状況だった。政治家の世界なら「あいつは内心はこう思っているらしい」といった話のネタになるぐらいで済むかもしれないが、官僚の世界なら「お前が情報を漏らしたのか」と疑われかねない。実際、外務省でも防衛省でも、機密に関わる情報がスクープされて犯人捜しが行われたことは何度もあった。

言うまでもなく「取材源の秘匿」は記者の基本である。せっかく特ダネを書いても、ネタ元がばれてしまえば、相手に取り返しの付かない迷惑をかけることになるし、記者の信用も失ってしまう。

菅は多角的に情報を集めることを力に変える政治家である。当然、安倍政権と同等以上に情報収集には精を出すだろう。

政治部は「権力監視」の役割を果たせるのか

伝統的とも時代遅れとも言える取材スタイル、記者の判断力の低下、情報管理の甘さなど不安要素を抱える中、政治部は「菅政権の監視」の役割を果たせるだろうか。政権発足直後、その行方に疑問を抱かざるを得ない出来事があった。

2020年9月24日、韓国の文在寅大統領との初の電話協議を終えた菅は官邸のエントランスホールでぶら下がり取材に応じた。官邸側から取材対応を申し出る珍しいケースで、菅は折りたたんだメモ用紙を手にカメラの前に現れた。