健康寿命が飛びぬけて長い大分県の姫島

後期高齢者になっても元気でばりばりと活動し、長患いすることなく、天寿をまっとうしていました。当時の姫島の寝たきり期間は平均で1.42年です。これがいかに短いかといえば、全国平均では男性9.22年、女性12.77年の時代です。

もっと驚くことは、大分県は健康寿命が短いことで知られていたことです。大分県の男性の寝たきり期間は全国1位の10.29年、女性は全国3位の13.89年でした。その大分県にあって1.42年の姫島は、飛び抜けて健康寿命が長い島だったのです。

大分の海といえば美味しい関サバ、関アジが有名で、姫島はクルマエビの養殖が盛んだと聞いていたので、さぞかし魚介類の動物性タンパク質を多く摂っているだろうと思っていたのですが、姫島の人びとは魚介類はめったに食べないのです。これは大変に意外なことでした。魚介類は姫島の貴重な産業製品なので、島内ではまったくと言っていいほど消費されません。

姫島の人びとの日常食は、畑仕事にいそしんで自作する野菜と海岸で獲る海藻(特にひじき)、そしてサツマイモが中心でした。要するに食物繊維がたっぷりの日常食です。これは腸内環境を良くする食習慣の典型です。ただし忘れてならないのは、畑仕事と海藻獲りによる豊富な運動量です。良い食習慣と豊富な運動量がセットになって初めて健康長寿が実現できるのです。

長寿の地域でよく食べられているサツマイモ

特産の伝統食は、12月の一定時期に収穫したひじきの新芽を二度ほど釡茹でにしてから天日干しにした「姫島ひじき」。これはとても柔らかい。

そして米麴で発酵させた自家製味噌にナスやニンジンの塩漬けを細く切って混ぜ合わせた「納豆味噌」もあります。さらに姫島ではサツマイモを主食と言っていいほどたくさん食べます。郷土料理である「いもきり」は、サツマイモの粉を練ってうどん状にして、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、長ネギといったてんこ盛りの野菜や豆腐と一緒に煮込んだ日常食です。

定番のおやつには干した薄切りのサツマイモともち米を練り合わせた「かんころ餅」があります。姫島の人びとの寝たきり期間が短い、すなわち健康寿命が長い理由を、食習慣から見ると、やはりサツマイモをたくさん食べるところにあるのだろうなと思わざるを得ませんでした。

サツマイモの収穫中
写真=iStock.com/okugawa
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もちろん、これらの地域でも研究用のウンチをいただきましたので、私たちは分析に励みました。そして私は、ひとつの長年にわたる課題に結論を出そうと考えました。「健康長寿につながる腸内細菌は何か?」。その答えこそ「長寿菌」グループの特定だったのです。

そもそも「長寿菌」グループを特定するというアイデアは、健康長寿の地域でフィールドワークを続けていた当時、あるご家族のウンチを分析したときに浮かんできたものでした。そのご一家は山梨県の小淵沢こぶちざわにお住まいだったのですが、健康長寿という年齢層のご一家ではありませんでした。

日常的に野菜を食べる食生活を続けておられ、動物性脂肪類はめったに食べず、飼っている鶏を食べる機会がたまにあるだけという食習慣のご一家だったのです。その野菜はすべて自給自足で、野菜を育てる肥料は自分たちのウンチを落ち葉に混ぜたものでした。

つまりかなり厳密な菜食主義のご一家だったのです。