テニスの大坂なおみも、「森会長の発言に関する質問に『まったく無知な発言だったと思う』と述べ、『このような発言をする人は、話す内容についてもっと知識を持つ必要がある』と話した」(AFP 2月6日 21:06

だが「身内」は批判する素振りは見せるが、引きずり下ろそうという人間は誰も出てこない。

IOC、政府、都知事も容認してしまった

森自身が毎日新聞の記者にこういっている。

「元々、会長職に未練はなく、いったんは辞任する腹を決めたが、武藤敏郎事務総長らの強い説得で思いとどまった」(2月6日付)

IOCのバッハ会長は、五輪精神を汚されたにも関わらず、「謝罪を理解し、この問題は終了した」と発表した。

だが、森発言に対して日本だけではなく世界各国から「森は辞任すべきだ」という批判の声が巻き起こり、あわてたのだろう。2月9日には一転して、「森会長の発言は極めて不適切で、IOCが取り組むアジェンダ2020での改革や決意と矛盾する」(朝日新聞デジタル2月9日 20時22分)と厳しく批判した。

IOCは多様性を尊重することを謳いながら、当初、森発言がその精神に矛盾すると考えなかったのだろうか。

私は、背景にはバッハと森との“癒着構造”があり、発言内容を精査しないまま事態を収拾しようとしたために起きた“事故”だったと思う。

森が自著『遺書 東京五輪への覚悟』(幻冬舎)で「小池さんはどうも(五輪のこと=筆者注)よくわかっていらっしゃらなかったようなので、都知事になられて最初に挨拶に来られたときに、『よく勉強してください』と申し上げたけれども、その後も勉強をされておられなかったようです」と痛烈に批判している“天敵”小池百合子都知事も、森からの謝罪の電話があったことで続投を容認してしまった。

東京都庁
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彼のどこにそんな“凄み”があるのか

中でも、極めつけは菅義偉首相である。2月4日に国会で、森発言についてどう思うかと聞かれ、「発言の詳細については承知していない」と答えたのである。

その後も、「森さんを辞めさせることができるのは、あなたしかいないのだから、辞めさせなさい」と追及されても、「国益にとっては芳しいものではないと思う」というだけで、「(組織委は)政府とは独立した法人として自ら判断されるものだと思う」と、責任放棄してしまったのだ。

83歳の、自ら「老害」と公言する人物を、なぜ、襤褸ぼろの如く捨て去れないのだろう。

五輪のボランティアからも辞退する人間が出ている。世界の女性アスリートたちの中から、もし開催されてもボイコットする動きが広がっているようだ。