森は安倍の父親・安倍晋太郎に近かったため、安倍晋三は森のことを「私の政治の師」といっている。
安倍政治の継承者を自任する菅首相が、森に何かいえるはずはないのである。
生前交遊があった台湾の李登輝元総統の告別式にも参列している。
スポーツ界では、学生時代からやっていた縁で、日本ラグビーフットボール協会の会長に就き、2019年に日本で行われたラグビーW杯招致に尽力したといわれる。
元首相で、これだけ幅広い人脈を持っている人間を他に知らない。安倍前首相は退陣して数カ月だが、政界はともかく、外交やスポーツ界への影響力は日に日に薄れている。
目の当たりにした「気配りの達人」
持ち上げるわけではないが、森の強みは、気配りの達人であることだろう。
私も一度、それを経験したことがある。
私が週刊現代編集長の時だったから、1990年代の半ばだと記憶している。森は自民党幹事長か閣僚だったと思う。森と親しかった現代の記者から、「森さんとゴルフをしませんか」と誘われた。ゴルフ場は森がメンバーになっているところだった。
だが当日の早朝、記者から電話があり、森が階段かなにかから落ちて足を骨折して動けないという。私は、口実で、他に用事ができたのだなと思ったが、2人で回ろうということになり、ゴルフ場へ向かった。
すると足を包帯でぐるぐる巻きにした森が、クラブハウスの入り口で待っていた。
彼は「申し訳ない」と頭を下げ、「足が治ったらやりましょう」といって杖を突きながら帰って行った。
それ以来会うことはなかったが、森はこの“情”一本やりで、日本の政界に影響力を持ち続け、世界の要人たちとの人脈をつくり上げてきたのであろう。
そこに“理”や“知”は必要なかった。
なぜ組織委員長を辞められないか
今回の女性への差別的発言もそうだが、森の女性差別には年季が入っている。
よく知られているのは、2003年に鹿児島市内で開かれた「全日本私立幼稚園連合九州地区大会」でのこの発言だ。
「子どもを沢山つくった女性が、将来国がご苦労様でしたといって、面倒を見るのが本来の福祉です。ところが子どもを1人もつくらない女性が、好き勝手、と言っちゃいかんけど、自由を謳歌して、楽しんで、年とって……税金で面倒見なさいというのは、本当におかしいですよ」
こんな考えの人間が長年、この国の政治を牛耳ってきたのだ。世界経済フォーラムが発表する「ジェンダー・ギャップ指数2020」(2019年)で、G7の中で最下位の121位というのは当然であろう。