「暗い近代史」が香港・ウイグルの抑圧にも影響か

——日本にとっての近代は「坂の上の雲」的なポジティブなイメージでとらえられがちなのですが、中国では異なります。中国にとっての近代は、欧米や日本といった列強諸国に侵略され、太平天国や義和団のような社会混乱が頻発した、暗く忌まわしき時代です。アヘン戦争の結果としてイギリスの植民地に組み込まれた香港は、中国の近代を象徴する街でもあります。

【菊池】そうですね。中国大陸の人たちにとって、欧米諸国はあこがれの対象である反面、アヘン戦争以来中国を徹底的にいじめてきたという、被害者感情を刺激される憎い相手でもある。いっぽうで香港は、中国大陸よりもずっと軽やかに欧米を受け入れているイメージがあり、中国本土の被害者感情からすれば「敵の回し者」のように見えてしまいかねない。

香港デモの発生後、中国大陸の人たちから拒絶反応に近い反応が湧き上がったのも、ひとつにはこうした過去の感情的なしこりや、不信感が関係していたように感じます。もちろん、香港デモの中心となっていた10~20代の若者とは直線関係がないことなのですが、バックグラウンドとしては否定できないと感じます。

2019年9月8日の香港デモの現場で登場した星条旗。一時期はデモ現場で大量に見られた。
撮影=安田峰俊
2019年9月8日の香港デモの現場で登場した星条旗。一時期はデモ現場で大量に見られた。

——現在、私たち外国人の目から見た中国は覇権主義国家としてのイメージが非常に強いのですが、中国自身はそう考えていません。あくまでも、「暗い近代史」のなかで失ったものを「取り戻す」行為をしているだけだと考えています。

【菊池】なぜ中国は、ウイグルなどの少数民族地域や香港に対して、あんなに抑圧的になれるのか。その抑圧性を自覚する感性をなぜ持たないのか? こうした疑問の答えも、中国が暗い近代史のなかで育んでしまった被害者意識にあります。現在は「先進国」と呼ばれている列強諸国から、かつてアヘン戦争以来150年にわたって叩かれ続けたトラウマは、容易に消えるものではありません。

——習近平政権の「中華民族の偉大なる復興」というスローガンも、実は根底にあるのは被害者意識、いじめられっ子意識です。

いわゆる反日問題についても、政治的なプロパガンダや反日教育といったレベルの話ではないでしょう。根底にはこの「暗い近代」のトラウマが横たわっていると思いますね。これらは外国人の目線からは理解しにくいだけに、中国側の自己認識としての自国の姿と、他国から見た中国の姿は今後もどんどん乖離していきかねません。誤解の果てに、いったいどんな場所へ行き着いてしまうのか。大変心配なところです。

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