DXの9割以上は「問題設定がズレているから失敗」

ワークショップの目的に「DXに向けた問題設定の質を高める」ことを掲げているのは、私たちが数々のプロジェクトの支援を行う中で、うまくいかないときの共通点に気づいたからです。それは、どのような方法を取るのか、ではなく、取り組んでいる問題そのものがズレているケースが多いことです。私の体感値としては、9割以上の確率で本当は「問題ではないこと」に悩んでいるのではないでしょうか。

私たちへのご相談も、たいていは「うまくいくやり方について聞きたい」という「解決の質」が上がらないことの悩みから始まります。ところが、話を聞くうちに、問題設定にこそ課題があるとわかってくるのです。

芯に巣くっている問題に向き合えていない人が想像以上に多いのです。

『90日で成果をだすDX入門』(日本経済新聞出版)より
90日で成果をだすDX入門』(日本経済新聞出版)より

ある企業から「ネット集客をテーマにしたマーケティングの勉強会」を依頼された事例があります。自社で立てた「成功体験が足りないせいで、ネット集客に積極的でない」との仮説に則り、我々にノウハウを学ぼうというものでした。しかし、実際に話を聞いてみると、ネットマーケティング以前に自分たちが担当しているサービスそのものに好感を持っていないので、誰もが真剣にマーケティングに取り組みたいと思えていなかったのです。

これはそもそもの「問題設定が違う」と感じ、まずはそのサービスを設計・開発している部門との連携を図ったり、内容への理解を推し進めたりすることを勧めました。

NY市長はどうやって犯罪率を下げたのか

問題がなかなか解決しない場合は、問題の設定を疑うべきです。

元ニューヨーク市長であるルドルフ・ジュリアーニ氏による「街の犯罪率を下げる」という目的に対しての事例は、この教訓を学ぶのにも適しているので紹介しましょう。

彼が犯罪率を大きく下げることに成功したのは、ニューヨークに入るために通らなければならない「橋」での「ゆすり」を徹底的に減らしたのが一因といわれます。ニューヨーク州の中心都市であるマンハッタンに入るためには橋か地下鉄を通りますが、かねてから橋上では交通渋滞が起きていました。すると、車が進めないところにギャングが現れ、銃やナイフを突きつけて金品をゆするという事件が多発していたのです。

ジュリアーニ氏は、「必ず通る橋で事件に遭うのは、観光客からすれば旅行の最初か最後で嫌な思いを抱く、最も悪いことだ」と考えました。中間目標に「橋上でのゆすりを減らす」を掲げますが、現行犯逮捕でないと取り締まれないという真の課題がみえてきました。そこで警官を増員し、横断歩道などがない橋上において、横断禁止の交通規則を破ろうとした人の取り締まりを一斉に強化しました。

車道に出た人間をすぐに捕まえ、IDチェックを実施。すると、橋上でのゆすりが劇的に減少し、安心を得た観光客の数も増えました。つまり、一見効果が高そうな重犯罪の対策よりも、軽微な交通違反を徹底的に取り締まることで、犯罪率を下げるという目的の達成に至ったのです。

この教訓からは、目的達成のためには「中間目標の立て方」がいかに重要か、その質によって、プロジェクトの成否も変わってくる、という要素がみえてきます。ジュリアーニ氏は「橋上でのゆすりを減らす」を中間目標に設定したからこそ、本来の目的を達成できたのです。