中国当局に拘束されているという疑惑があるが…

実際、12月24日には中国国家市場監督管理総局がアリババグループに対する独占禁止法違反を立件、調査することを発表し、浙江省杭州市のアリババ本社に立ち入り調査を行っている。

こうした一連の経緯を見ると、ジャック・マーの“失踪”について、さまざまな憶測が広がるのも無理はないことだろう。中国メディアにはジャック・マーの“失踪”に関するニュースはないが、中国当局がジャック・マーとアリババグループに関する独自報道を禁止していることが、メディア関係者のリークによって明らかになっている。

中国では有力な企業家が取り調べを受け、逮捕される事例は少なくない。しかも、経済犯罪のみならず政争に巻き込まれてという展開も多い。ひょっとして中国を代表する企業家であるジャック・マーまでもが、と想像が広がるのは無理からぬところだろう。

はたして真相やいかに。筆者はジャック・マーが当局の厳しい取り調べを受け、今後逮捕される可能性は低いと分析している。なぜ、このように考えるのか。それを知るためにはこれまで逮捕された有力企業家とジャック・マーの違いについて知る必要がある。

逮捕や失踪が続く中国有名実業家

2017年6月、中国当局は安邦保険集団創業者の呉小暉(ウー・シャオフイ)を拘束した。翌年6月には詐欺、職権濫用などの罪で懲役18年の判決が下されている。呉は2004年に創業し、保険業を中心に銀行や証券会社を抱える金融コングロマリットを一代で築き上げた、まさに立志伝中の人物だ。

逮捕
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有罪判決によって没収された個人資産はなんと850億元(約1兆3600億円)を超える。

呉の成功、その影にあったのは妻の存在だった。かの鄧小平(ダン・シャオピン)の孫娘と婚姻関係にあり、その影響力を駆使したという。投資型保険商品で金をかき集め、大型買収を繰り返すというハイリスクの経営を続けていたが、孫娘との離婚後に当局は態度を一変し、規制へと方向変換している。

明天系と呼ばれる投資企業グループを率いた肖建華(シャオ・ジエンホワ)は2017年1月に香港で失踪。顔を覆われ車椅子に乗せられた状態でホテルから連れ出されたとの証言もあったが、3年が過ぎた今も失踪の真実も、肖の行方もわからぬままだ。

2020年7月、中国当局は明天系の企業を政府の監視下に置くことを発表した。本当の企業支配者と持ち株比率をごまかしたためと説明しているが、納得できる人はそう多くはないだろう。

肖は賈慶林(ジャー・チンリィン)元全国政治協商会議主席をはじめ、上海閥の政治家と太いつながりを持っていたとされる。習近平体制発足後、危険を感じ取ったのか、肖は香港に拠点を移していたが、そこで謎の“失踪”を遂げたというわけだ。