“無名”な選手に大一番で力を発揮させる大八木監督の「檄の飛ばし方」
駒大には全国からエリート選手が集まるが、今回ヒーローになった石川は全国大会に出場するようなレベルではなかった。
「高校時代は自分でもあまり強い選手ではなかったと思っています。大学選びで悩んでいたんですけど、『個々の能力を伸ばせば、チームは強くなる』という大八木監督のもとでしっかり走れば自分は強くなると感じたので駒大に入学しました」(石川)
駒大には石川のように大八木監督の指導を受けたいと願う選手たちが集まってくる。彼らにとって大八木監督は強烈なカリスマ性を誇る存在だ。その声はただの指示ではない。
「監督から檄を飛ばされるのがうれしくて…」大八木マジックの秘密
今回5区で粘りの走りを見せた鈴木芽吹(1年)は、「監督から檄を飛ばしてもらって、自分のなかでスイッチを入れて走ることができました」と話している。さらにトップ創価大とは2分21秒差で芦ノ湖をスタートした、復路の最初の区間6区花崎悠紀(3年)も“大八木節”を待っていた選手だ。
「箱根湯本駅で監督と合流するので、そこで声をかけていただければ、身体は動くと思っていました。監督からは、『区間賞争いをしているぞ』という声があったんです。実際は2位と差があったんですけど、やばい、やばい、と思って走りました。僕自身、監督から檄を飛ばされるのがうれしくて、箱根駅伝だなという感じがしましたね。終盤は苦しかったですけど、総合優勝のためには自分が少しでも詰めるしかないと思っていました」
大八木監督のイメージよりも50秒ほど速く山を駆け下りた花崎は区間歴代3位の57分36秒で区間賞を獲得。この時点で創価大の背中に1分13秒も接近した。
個々の性格を見抜いたうえで、大八木監督は選手たちに“力が湧き出るような声”をかけてきた。特に「男だろ!」のフレーズは箱根路の名物になっている。大八木監督は“種明かし”をしてくれた。
「『男だろ!』はだいたいポイントのところでしか言わないですね。最後のほうで喝を入れたいときに時々使います」
神の声を聞いた選手たちが躍動した箱根駅伝2021。全10区中、1~3年生が9人という若いチームで13年ぶりの優勝を果たした駒大は、62歳のカリスマ監督のもと“黄金時代”に突入したといえるだろう。