創価大の背中が見えてきた「区間賞と優勝の2つを狙っていけ!」

一方、追いかける駒大・大八木弘明監督も10区で“大逆転”が起きるとは想像していなかった。では、「大逆転を可能にした男」は何が違ったのか。

13年ぶり7度目の総合優勝を果たし、記者会見する駒大の大八木弘明監督
写真=時事通信フォト

大逆転を演じヒーローになった石川拓慎(3年)は前年も10区を経験している。その時は東洋大をかわして8位でゴールしているが、早大に1秒差で競り負けている。「絶対に前回の悔しさを晴らしてやる」と気合は十分だった。大八木監督も「石川は『区間賞を狙いに行け』と言ったら、本当に狙いに行ってくれたんです」と話している。

リードを死守しなければいけない、というネガティブな気持ちが大きかった小野田とは対照的に、石川は「区間賞」というポジティブな目標があった。

意外に思われるかもしれないが、大八木監督は10区石川に“逆転V”を託していたわけではなかった。「3分19秒離されていたので、2番確保かなという思いがありました」とイチかバチかの走りではなく、石川の力を100%発揮できるところに狙いを定めていた。それがじわじわと効いてくることになる。

20km地点、「男だろ!」という監督の声が届いて、スイッチが入った

両者の差は蒲田(10区5.9km地点)で2分45秒に縮まり、新八ツ山橋(同13.3km地点)では1分57秒とさらに縮まった。石川はここまで区間トップでひた走る。新八ツ山橋から小野寺のペースが急激に鈍りだし、15kmを過ぎて大八木監督が乗る運営管理車からも創価大の背中が見えてきた。そこからは「区間賞と優勝の2つを狙っていけ!」と大八木監督の声が飛ぶようになる。

「15km地点の給水をもらったとき、いつもならきつくなるのに身体が動いていたんです。これなら逆転の可能性があるかなと思っていました。20kmくらいですかね。監督の『男だろ!』という声が届いて、自分のなかでスイッチが入ったんです」

箱根路に幾度も響いた大八木監督の「男だろ!」の檄が石川の身体を突き動かした。鶴見中継所で3分19秒あったビハインド。石川は狙い通りの区間賞を獲得したことで、ミラクルVまで手に入れたのだ。