全国から高校生が指導を仰ぎにくる「行列のできる駅伝監督」
2021年の箱根駅伝は最終10区でドラマチックな大逆転劇が待っていた。
9区を終えてトップの創価大と2位の駒大は3分19秒差。明らかにセーフティーリードといえるものだった。しかし、駒大は“奇跡”を演じた。いったい何が起きたのか。
筆者は、かつて学生時代(東京農大)に箱根駅伝10区を走ったことがある。そのときの“恐怖体験”を久しぶりに思い出した。
当時はシード権が9位以内(現在は10位以内、次回大会を予選大会なしで本選出場できる)で、1年生だった筆者にタスキが渡ったのは8位。9位の大学とは2分47秒差、10位の大学とは5分19秒差がついていた。このとき思ったのは「大ブレーキさえしなければシード権は確保できる」というものだった。当時は給水もなく、走る選手の後を追う運営管理車に監督も同乗していなかった。小旗を振る音と、沿道の大歓声が終始響いていた。
ブレーキさえしなければ大丈夫、と自分に言い聞かせたが、何度か意識がなくなりかけた。
終盤は幾度も後ろを確認した記憶がある。汗の染み込んだタスキがとにかく重かった。設定より1分40秒ほど悪いタイムながら、総合8位でゴールに飛び込んだときは安堵した。区間最下位のタイムを覚悟したが、区間13位。自分よりも遅かった選手がふたりもいたことに少し驚いた。それくらい10区はブレーキの多い区間なのだ。
箱根駅伝最終10区、創価大が3分以上のリードを守れなかったワケ
このときシード権争いの9位と10位では2分32秒差の大逆転が起きている。
だから、今回の創価大のアンカーを務めた小野寺勇樹(3年)の“感覚”が少し理解できる。榎木和貴監督によると小野寺は体調の問題もなく、「2分あれば逃げ切れるかな」と思っていたという。しかし、セーフティーリードを守るどころか、1分近くの差をつけられて2位でゴールすることになる。
「小野寺は13~14kmぐらいから動きが鈍ってきた感じがあったんです。あと10km近くありましたが、まだ2分近い差があったので、なんとかなるだろうと思っていました。ただ優勝のプレッシャーが影響して、予想以上に消耗していたのかもしれません」(榎木監督)
創価大は今回が4回目の本選出場で、箱根と並ぶ大学駅伝の主要大会である「出雲」と「全日本」の出場はない。チームとしての“経験値”が乏しかった。加えて、小野寺は今回が学生駅伝初出場。10区は向かい風になり、直射日光も強かった。しかも、ずっと1位をひた走り優勝して当然といえる雰囲気のなかで“未経験者”がまともに走るのは難しかったといえるだろう。走力の問題ではなく、過度な緊張によるメンタル面が急失速の原因だった。